2022/07/30

酸素投与による運動の効果に有意性なし(運動中の酸素投与vs医療空気) ERJ2019

Oxygen compared to air during exercise training in COPD with exercise-induced
desaturation

Eur Respir J 2019; 53: 1802429

https://erj.ersjournals.com/content/53/5/1802429

【背景】
呼吸リハを行っているCOPD患者の約半数は運動中の低酸素血症がある。酸素投与は運動中の低酸素を改善させるが、運動のアウトカムへの影響については詳しく評価されていない。
目的は、COPD患者において、運動中の酸素投与が、医療ガスの吸入よりも運動耐容能やHRQOLを改善させるかについて検討すること。

【方法】
6MWTにてSpO2<90%となったCOPD患者が対象。酸素投与が医療ガスかを無作為に振り分け。
両グループはトレッドミルやエルゴ中に5L/mnの酸素もしくは医療ガスを吸入しながら運動実施。
運動期間は週3回を8週間。
プライマリーアウトカムは定常シャトルウォーキングテスト(ESWT)の持続時間とCRQの合計スコア

【結果】
111人が対象(うち男性60人)。平均年齢69歳、中等症から重症のCOP患者がリクルート。
8週間のプログラム終了後、ESWTやCRQ合計スコアの変化は両グループに差はなかった。
両グループとも、終了時にESWTとCRQスコアが改善していた。

【考察】
運動耐容能とHRQOLは酸素投与によって医療ガスよりも大きな効果が無いことが分かった。


・対象
肺機能検査でCOPDと診断され、RAでの6MWTで最低SpO2<90%。
6MWD(350m以下 vs 350m以上)、最低SpO2(89-86% vs 86%以下)で酸素グループと空気グループに分類。
どちらのグループも5L/minの流量でネーザルカニューラから投与。

・運動内容
6MWTの平均速度の80%でトレッドミル歩行20分、エルゴは最大負荷(6MWTから推定)の60%を10分実施。
週3回を8週間実施
運動時間は合計40分以上(トレッドミル20分、エルゴ20分)となるように調整。
運動負荷は息切れの自覚症状(RPE3-4:中等度-いくらかきつい)の応じて増加。
運動中のSpO2はトレーナーには明らかにせず、SpO2<80%となった場合のみ運動を中断。
SpO2が88%まで回復したら運動を再開

・評価指標
プライマリーアウトカム:ESWTでの運動耐容能、HRQOL(CRQ-total)
セカンダリーアウトカム:ISWTでの最大運動負荷、CRQのドメイン(息切れ、疲労、感情機能)、Dyspnea-12での息切れ、身体活動レベル(加速度計)
評価は、ベースライン、運動セッション終了時、運動セッション終了6ヶ月後


・結果

ESWT time、CRQ-totalスコアとも、運動後に改善
グループ間にベースライン、運動後、6ヶ月後で有意差なし

a)トレッドミルでの総負荷、b)エルゴでの総負荷
どちらのグループも、運動セッションを追うごとに運動負荷を漸増できた。
トレッドミルは運動負荷に有意差なし
エルゴでは、酸素グループの方が、平均運動負荷はより多かった(mean difference 4.1METs)

運動時のSpO2は、トレッドミル、エルゴともに最後の5分間のSpO2は酸素グループの方が高かった。
80%以下で中断したのは、酸素グループで1名、空気グループで4名。エルゴで中断に至った対象者はいなかった
息切れの自覚症状(RPE)は、空気グループの方が強かった。

・有害事象
酸素グループ:運動中の心房細動(1名)、トレーニングに向かう途中で失神(1名)
空気グループ:トレッドミルセッション終了後に軽度の脳卒中(1名)、トレーニングの無い日に軽度の心筋梗塞(1名)


2022/07/29

重症COPD 運動時のNIVで運動持続時間延長

Bilevel Noninvasive Ventilation During Exercise Reduces Dynamic Hyperinflation and Improves Cycle Endurance Time in Severe to Very Severe COPD

Chest (IF: 9.41; Q1). 2021 Dec;160(6):2066-2079.


【背景】
吸気予備量(inspiratory capacity:IC)の減少で測定される、運動中の動的肺過膨張(dynamic hyperinflation:DH)は、多くの重症COPD患者において、動作時息切れを増強させ、耐容能を減少させる。運動中のNIVが、DHへ影響し、運動時間を延長できるかは明らかでない。

【リサーチクエスチョン】
COPD患者において、運動中のバイレベルNIVによって、DHが減少し、NIV無しでの運動と比べて運動持続時間が向上するか。
個別に設定したEPAPによるNIVはDHを減少させ、標準的なEPAP5cmH2Oよりも運動時間を延長させるか。

【方法】
ランダム化クロスオーバー試験
参加者:N = 19; FEV1 of 1.02 ± 0.24 L (39% ± 6% predicted)
ランダムに3種類(NIV無し、標準的EPAP、個別EPAP)の定常負荷での持続サイクルテストを実施。
プライマリーアウトカム:isotime ICと運動持続時間
それぞれの介入によるアウトカム評価はisotimeと運動後に測定し、線形混合モデル解析を使用。

【結果】
NIV無しと比べて、ICと運動持続時間はNIV使用によって、延長した(標準EPAP、個別EPAPのどちらも)。
標準EPAPと個別EPAPには有意差は無かった。

【考察】
運動時のDHのあるCOPD患者において、運動中のNIVは、DHを減少させ、運動時速時間を延長した。
5cmH2Oの標準的なEPAPで十分に効果が得られた。

2022/07/23

IPFとCOPD 呼吸リハの効果 傾向スコアマッチ

Pulmonary Rehabilitation in Idiopathic Pulmonary Fibrosis and COPD
A Propensity-Matched Real-World Study

Chest (IF: 9.41; Q1). 2022 Mar;161(3):728-737. 


【背景】
IPF患者の呼吸リハビリの臨床的効果については、COPDと比べると未だ明らかになっていない。
この研究では、外来呼吸リハプログラムを実施したIPF患者の反応を、同様の介入を行ったマッチさせたグループのCOPDと比較し、呼吸リハとIPFの生存率の関連について検討した。
リサーチクエスチョン:IPF患者は、COPD患者と同程度の呼吸リハによる改善があるのか、未完了、反応しないグループと1年後の死亡率を比較。

【方法】
傾向スコアマッチングを使用
163人のIPFと1:1でマッチさせた163人のCOPD
グループ間の呼吸リハ完了率と反応性を比較
IPF集団の生存率は呼吸リハ終了1年後を記録
Cox比例ハザード回帰で呼吸リハの状態と死亡率の関係を解析。

【結果】
呼吸リハ完了率は同程度 (IPF, 69%; COPD, 63%; P = .24)、運動の反応性(ISWTの変化)も、有意差なし(mean, 2 m [95% CI, -18 to 22 m]).
呼吸リハ未完了(hazard ratio [HR], 5.62 [95% CI, 2.24-14.08])、非反応 (HR, 3.91 [95% CI, 1.54-9.93]) 、は1年後の死亡率の増加と関連。

【考察】
IPF患者では、COPDと比べて同程度の呼吸リハ完了率、反応性を示した。
IPFにおいて、呼吸リハを完了できない、反応性が乏しいことは、死亡率の増加と関連していた。
これらのデータは、IPF患者において呼吸リハが有効であることを支持する。

2022/07/14

非小細胞肺がん:術後運動プログラムで1ヶ月後に術前レベルに回復。

Effect of postoperative physical training on activity after curative surgery for non-small cell lung cancer: a multicentre randomised controlled trial

Physiotherapy (IF: 3.36; Q1). 2014 Jun;100(2):100-7.


【目的】
非小細胞肺がん(NSCLC)の根治手術後の病院と自宅での運動プログラムの効果を評価する事

【方法】
ランダム化比較試験。
131人の根治手術を行ったNSCLC患者。
ランダムに通常ケアと病院+自宅での運動プログラムを行う群に振り分け
プライマリーアウトカム:両グループの術後の身体活動の違い
セカンダリーアウトカム:両グループの大腿四頭筋、運動耐容能、QOL(SF-36、EORTC)の術前(baseline)と術後4週を比較。

【結果】
n=131、平均年齢68歳、平均FEV1.0 2.4L.
術後4週の身体活動に両グループの違いはなかった
SF-36、EORTCスコアのベースラインと術後4週の変化はなかった。
どちらのグループも術後4週で術前の歩行距離(ISWT)に回復しており、どちらのグループも違いはなかった

【考察】
病院と自宅での運動プログラムは手術を行ったNSCLCの患者にわずかな利益を示した。
グループ分けによらず、術後4週で術前の運動耐容能に回復していた。

2022/07/11

低酸素血症のあるCOPDに対しての在宅酸素は生存率に影響するか?Lancet2022

Home oxygen for moderate hypoxaemia in chronic obstructive pulmonary disease: a systematic review and meta-analysis

Lancet 2022 


【背景】
長期酸素療法(LTOT)は重度の低酸素血症のあるCOPD患者の生存率を向上させる。
しかし、LTOTが対象とならない中等度の低酸素血症(夜間のみの低酸素血症を含む)の最適な管理については定まっていない。
中等度の低酸素血症のあるCOPD患者における在宅酸素(LOTOか夜間のみの酸素吸入)の効果について検討した。

【方法】
このシステマティックレビューとメタアナリシスでは、2022年1月にデータベースで中等度の日中低酸素のあるCOPDもしくは夜間のみの低酸素血症のある患者に対して、パラレルグループorランダム化試験で検討を行った研究を対象。
コントロールグループは、通常ケアもしくは圧縮酸素の吸入(placebo)を実施。
プライマリーアウトカム:3年間の死亡率
クロスオーバー試験と重症低酸素血症の酸素の研究は除外。
2人のレビュアーが適格、除外基準を選別。
方法の質はthe Cochrane Risk of Bias toolを使用して評価。
3年間フォローし、在宅酸素の死亡率の相対リスク減少が30-40%をMCIDと設定。

【結果】
2192件の研究をスクリーニングし、161件で本文をスクリーニング、6件の文献が適格基準を満たした。
これら6文献はランダム化試験で、1992年から2020年に採択され、質的エビデンスは高かった。
最初のメタアナリシス(5文献、1002人)において、3年後の死亡率の減少効果は小さいかほぼ無く、(相対リスク0.91、95%CI0.72-1.16)、したがって、95%CIの下限では、MCIDを満たすことができなかった。

【考察】
今回の結果は、中等度低酸素血症のあるCOPD患者における在宅酸素療法による3年間の生存率に与える影響は、わずかかほぼ無いということを示唆した。
今回の対象患者群に対して、在宅酸素の使用を広く支持するものではない。

肺がん術前短期間高強度インターバルトレーニングは術後のアウトカムを改善しない

Short-term preoperative exercise therapy does not improve long-term outcome after lung cancer surgery: a randomized controlled study

Eur J Cardiothorac Surg (IF: 4.19; Q2). 2017 Jul 1;52(1):47-54.


【目的】
有酸素能力が低いと肺がん患者の潜在的で修正可能な生存率やQOLのリスクファクターの可能性がある。
このランダム化試験は、肺がん術前に高強度インターバルトレーニング(HIIT)をリハに加える事が、心肺フィットネスと術後の長期アウトカムに影響するかを検討した。

【方法】
手術可能な肺がん患者を無作為に通常ケア(n=77)と術前のみHIITを行う介入ケア(n=74)に振り分け。
心肺運動試験(CPET)と肺機能検査を術前と1年後に実施

【結果】
術前の待期期間(中央値25日)、介入群は中央値8セッションHIITを実施。
1年のフォロー後、91%の通常ケア群と93%の介入群が生存(p=.506)。
肺機能の変化は統計的な差はなかった
術前のCPETの結果を比較すると、どちらの群も最大酸素摂取量と最大運動負荷は同じ程度減少していた。

【考察】
短期間のHIIT術前リハは術後1年の肺機能と有酸素能力の改善は見られなかった。

肺切除前の運動療法は機能低下を予防する

Preoperative exercise training prevents functional decline after lung resection surgery: a randomized, single-blind controlled trial

Clin Rehabil (IF: 3.48; Q1). 2017 Aug;31(8):1057-1067.


【目的】
肺がんでVATSを行う患者における術前呼吸リハプログラムの効果を検討する事

【方法】
ランダム化単盲検比較試験
肺がんの疑いor確定した患者でVATSを行った患者が対象
患者をランダムに術前リハorコントロールに振り分け
術前リハは、中等度の持久力運動とレンジスタンストレーニング、呼吸練習を週3-5回実施

プライマリーアウトカム:運動耐容能
セカンダリーアウトカム:筋力、健康関連QOL(SF-36)、術後アウトカム
評価のタイミング:ベースライン(ランダム化前)、術前(術前リハ群のみ)、術後と3か月後

【結果】
40人の患者をランダム化、22人が介入完了した(術前リハ10人、コントロール12人)
3人の患者は3か月後のフォローできず
トレーニング後、運動耐容能の改善(+397秒、p=.0001)、SF-36身体的項目(-4.4点、p=.008)、筋力(p<.01)に統計的に有意な改善を認めた
術後のグループ間での違いはなかった
しかし、術後3か月後、平均運動耐容能の変化、身体的項目、上下肢筋力に有意差を認めた。

【考察】
VATS前の呼吸リハプログラムは、患者の術前のコンディションを向上させると思われ、術後の機能低下を予防するかもしれない。

2022/07/06

術前運動負荷試験の結果でリスク層別化してのリハの効果

Effectiveness of Perioperative Cardiopulmonary Rehabilitation in Patients With Lung Cancer Undergoing Video-Assisted Thoracic Surgery

Front Med (Lausanne) (IF: 3.9; Q1). 2022 Jun 15;9:900165.


【目的】
肺がん患者は、肺切除後の罹患率と死亡率のリスクが高まる。
周術期心肺リハビリ(perioperative cardiopulmonary rehabilitation:PRCR)を受けた患者は予後が良い。
最大酸素摂取量(peakVO2)、換気閾値時点のVO2(VO2 at VT)、CO2生成に対する分時換気量の勾配(VE/VCO2 Slope)を、心肺運動負荷試験(CPET)で術前に評価し、肺切除後の予測値を計測した。
目的は、異なる術前リスクのあるVATSを行った肺がん患者に対して、術後合併症に対するPRCRの効果を検証すること

【方法】
後方視研究
2017-2021年に肺がんでVATSを行った125人の患者が対象
CPETは術前リスクレベルの評価のために実施。PRCRはpeakVO2、VO2 at VT、VE/VCO2 slopeによってリスクレベルを分けたものを基に実施。
プライマリーアウトカム:ICU日数、在院日数、気管挿管時間(ETT)、胸腔ドレーン挿入時間
セカンダリーアウトカム:術後合併症(PPCs)、皮下気腫、気胸、胸水、無気肺、蓄膿症を含む。

【結果】
peakVO2(3グループ)、VO2atVT(2グループ)、VE/VCO2 slope(3グループ)でリスクレベルを基に3グループで比較した。
プライマリーアウトカム、セカンダリーアウトカムともに有意な差は得られなかった。

【考察】
異なるリスクレベルの患者で、CPETを最高にしたPRCRを行った後の予後やPPCsを示した。
PRCRは肺がんでVATSを行った患者において奨励されるべきである。

2022/07/02

がん術後の身体活動量。術後3カ月で術前まで回復したのは41%

Postoperative recovery of accelerometer-based physical activity in older cancer patients

Eur J Surg Oncol (IF: 4.42; Q2). 2020 Nov;46(11):2083-2090.


【背景】
身体活動の回復は、がん術後の重要な機能的アウトカムである。
しかし、高齢がん患者における客観的な身体活動に関するデータは。希少である。
目的は、術前身体活動レベルを測定し、術後3ヶ月後の身体活動の回復を評価し、回復した患者の特性を調べること。

【方法】
観察コホート研究。65歳以上のがんで予定手術をする患者を2018年から2019年に調査。
周術期の1日の歩数をFitbitデバイスを使用して評価
プライマリーアウトカムは術後3カ月で、術前の身体活動レベルの90%以上に回復した患者の割合

【結果】
50人の患者(平均年齢73歳)がデータ解析可能であった
ベースラインの歩数の中央値:5974歩 (IQR 4,250-7,922)
退院前の歩数:1619歩(IQR 920-2,839)
術後3カ月の歩数:4674歩(IQR 3,047-7,592)
37人中15人の患者(41%)の術後3カ月後に術前活動レベルに近づいた患者は、そうでない患者と比較して、術前の自己申告の活動量が多い傾向にあり、麻酔科医の身体的状態の分類も良好で、院内合併症が少ないが、統計的に有意ではなかった。

【考察】
周術期の身体活動で高齢がん患者を分類し、3ヶ月後の身体活動レベルは、41%の患者でベースラインまで回復していた。
加速度計を使用した身体活動の値は、術後身体活動の回復を評価する価値あるアウトカムである。
さらなる研究で、客観的な身体活動を評価し、身体活動を向上させるための介入効果の検討が必要である。