2020/10/28

線維性肺疾患患者の歩行時酸素投与の効果

 Effect of ambulatory oxygen on quality of life for patients with fibrotic lung disease (AmbOx): a prospective, open-label, mixed-method, crossover randomised controlled trial

Lancet Respir Med (IF: 25.094; Q1). 2018 Oct;6(10):759-770.


<背景>
線維性間質性肺疾患において、動作時息切れは、健康関連QOLと強く関連している。息切れは、低酸素血症としばしば関連しているが、線維性肺疾患患者へ動作時に酸素投与を行った研究はいくつかしかない。
目的は、線維性肺疾患患者で動作時低酸素血症のある患者へ動作時に酸素投与を行うことが、HRQOLに影響するかを検討すること。

<方法>
イギリスの3つの施設にて行われた。
対象患者は、18歳以上、線維性肺疾患と診断されている、安静時の低酸素はないが、6MWTにてSpO2≦88%となり、過去2週間に呼吸器症状が安定している患者。
対象者は、酸素療法もしくは酸素なしに2週間振り分けられ、その後2週間クロスオーバーして検証。
プライマリーアウトカムは、酸素療法2週間後と酸素なし2週間後のthe King's Brief Interstitial Lung Disease questionnaire (K-BILD)を比較。

<結果>
2014年から2016年、84人の患者がランダム化され、76人がすべての検証を完了。
酸素なしと比較して、酸素療法は、K-BILD合計スコアの著しい改善と関連していた(55.5vs51.8、p<0·0001)。サブドメインの息切れ、活動、胸部症状も改善。
しかし、心理的サブドメインへの影響は見られなかった。
最も多かった新規イベントは、上気道感染症であった。
5件の重篤なイベント(2件の死亡含む)があったが、治療に関連しているとは考えられなかった。

<考察>
動作時酸素投与は、動作時低酸素血症のある間質性肺疾患患者のHRQOL改善と関連していた。
治療オプションとして、動作時低酸素のある患者群には有効かもしれない。
さらなる検証が必要である。

・対象患者:%FVC 73.1%、%DLCO 38.5%、6MWT:372.4m、SpO2 85.1%
・6MWT後のmin SpO2:88.9%vs82.9%(p<0.0001)
・6MWD:373.2mvs354.7m(p=.0001)
・SpO2 リカバリータイム:117秒vs217.7秒(p<0.0001)

2020/10/26

フレイルと性差、生存率

 Sex-specific prevalence and outcomes of frailty in critically ill patients

Journal of Intensive Care volume 8, Article number: 75 (2020)



<背景>
フレイルの予防は、入院した患者の短期的、長期的アウトカムにおける重要な因子である。
重症患者の研究で、男女で死亡率や臓器支援率が異なることが分かっている。
この研究の目的は、死亡率と臓器支援率が性別の違いやフレイル単独で説明できるか、もしくは、性別とフレイルの関係が重要なリスク因子であることを説明すること。

<方法>
後方視多施設観察研究。
2016-2017年にカナダの17のICUに入院した成人患者が対象。
入院時、専門家が Clinical Frailty Scale (CFS:1-9点、高いほうが重症)で全患者を評価。
CFSが評価できなかった患者やICU入院24時間以内に死亡した患者は除外。
フレイルの基準は、CFS5点以上。
アウトカムは、病院での死亡率、ICU死亡率、臓器支援率。
性別とフレイルの相互作用について、多変量Cox回帰もしくはロジスティック回帰分析を実施。

<結果>
15238人の患者がコホート対象。傾向スコアでマッチした11816人は除外。
女性は、男性よりフレイルの有病率が高く(32%vs27%)、フレイルのオッズ比も高かった(OR1.29)
しかし、女性は、人工呼吸が必要となる割合は低かった。(OR0.78)
性別とフレイルの相互作用は、臓器支援率の違いと関連していなかった。
透析と血管作用薬の処方は、入院死亡率やICU死亡率と同じように、フレイルと関連していたが、女性もしくは、性別とフレイルの相互作用とは関連していなかった。

<考察>
フレイルと性別は、個別に死亡率やICUでの臓器支援率と関連していたが、性別とフレイルの相互作用にほかのアウトカムよりも著明な違いはなかった。


・ICU入室前にフレイルがあった女性の割合は、男性よりも多かった
・女性は、CFSが高かった
フレイルの状態の層別化とA.ICU死亡率、B.入院死亡率


2020/10/23

肺がん術後の理学療法介入で、術後活動量は増えるか?

 In-Hospital Physiotherapy and Physical Recovery 3 Months After Lung Cancer Surgery: A Randomized Controlled Trial

Integr Cancer Ther (IF: 2.379; Q1). Jan-Dec 2019;18:1534735419876346.


<背景>
肺がんは、がんの種類で最も多く、死因の一つである。手術は、根治治療の第一手段である。術後合併症予防のために、理学療法がルーチンで処方されるが、これらのエビデンスは限定的である。
この研究の目的は、入院中の理学療法が、術後運動耐容能、身体活動、肺機能へ影響するかを検討すること。

<方法>
107人の患者が対象。単施設での単盲検ランダム化試験。
入院中に理学療法を行う群と行わない群(コントロール群)にランダムに振り分け。
評価は、術前と、術後3か月後に実施。
入院中の理学療法の内容は、早期離床、歩行、呼吸練習、胸郭可動域訓練。
運動耐容能は6MWTで評価。
身体活動レベルは、加速度計と高齢者用IPAQを使用。

<結果>
全対象者の術後3か月後の運動耐容能は、術前と比べて低下していた有意に低下していた)(p=.047)
2群間で、運動耐容能、身体活動性、肺機能、息切れに明らかな違いはなかった。
しかし、介入群の自己報告身体活動レベルが、術前から術後3か月後に著明に増加しており、
コントロール群では認められなかった。

<考察>
肺がん術後の理学療法を入院中に行った群で、術後3か月後の運動耐容能、身体活動、肺機能に優位性は見られなかった。






2020/10/18

重症COPD患者が運動中にマスクを着けてもガス交換に影響しない

 Effect of Face Masks on Gas Exchange in Healthy Persons and Patients with COPD

Ann Am Thorac Soc (IF: 4.836; Q1). 2020 Oct 2.


<背景>
観察研究のシステマティックレビューと疫学モデルによる現在のエビデンスは、一般的なサージカルマスクを使用することで、COVID-19感染と致死率を緩和する。
しかし、一般的なマスクを使用することは、政治的な影響が強く、一貫性のない勧告により、世論が分かれている。
反対のエビデンスがあるにも関わらず、US/UKのオンライン調査で、わずか29.7%-37.8%の参加者のみが、マスクを装着することは、COVID-19感染予防効果があると回答した。
そのほかのマスクを装着しない共通した理由として、マスクが、二酸化炭素の再呼吸を促進する事と、低酸素血症に対する安全性への懸念があり、マスクは致命的とさえ考えられている。

<目的>
肺疾患の有る、または、無い対象者に対して、サージカルマスクを装着することでガス交換の異常をきたすかを検討した。

<方法>
呼気終末二酸化炭素(ETCO2)と酸素飽和度(SpO2)をサージカルマスク着用前後で測定。
対象は、肺疾患のない健常者15人(年齢31.1歳、60%が男性)と重症COPD15人(年齢71.6歳、%FEV1.0 44.0%、全員男性)
患者は、気管支拡張薬吸入後の肺機能検査にて、%FEV1<50%かつFEV1.0%<0.7であること、6MWTで必要な酸素量を評価。
筆者の施設では、6MWT開始前と終了直後の動脈血ガスを採取し、長期酸素療法が必要かを評価。

COVID-19パンデミックのため、6MWTはサージカルマスクを着用して実施。
ベースライン評価は、マスクないの室内気環境において、非侵襲的モニターで評価。続けてマスクを着用してモニタリングを行った。

5分後と30分後、安静時のどのポイントにおいても、ETCO2とSpO2 の値に両グループ間での有意差はなかった。
6MWTにおいて、重症COPD患者はSpO2 が低下した。
しかし、COPD患者で、サージカルマスクを着用して6MWTを測定した後の血ガスにおいて、生理的な変化を示さなかった。特に、CO2の再呼吸は見られなかった

<考察>
1回換気量や分時換気量の変化は測定していないが、今回データは、重症肺疾患患者がマスクを着用することによるガス交換への影響を受けないことを示唆した。
今回は、20人の健常ボランティアに対して、1時間マスクを着用し中等度の仕事量を行っても同様の結果を示した。(若干の生理的な反応の上昇を認めたが、臨床的に有意な差ではなかかった)
マスク装着による不快感は、神経学的な反応(マスクで覆っている範囲の熱受容体の求心性インパルスの上昇や吸気の温度上昇による)、もしくは、不安や閉所恐怖症、呼吸困難感に対する反応のような心理的な反応が関連している。

今回の結果は、N-95マスク装着とは対照的な結果で、肺疾患のない健康な者が使用するとPaCO2のが上昇するかもしれないが、生理的な反応はないだろう。





2020/10/13

術後合併症の発生をSPPB10点未満で予測

 Short-Physical Performance Battery (SPPB) score is associated with
postoperative pulmonary complications in elderly patients undergoing lung
resection surgery: A prospective multicenter cohort study

Chron Respir Dis (IF: 2.168; Q2). Jan-Dec 2020;17:1479973120961846.


<背景>
肺切除術を予定している高齢者は、しばしば身体機能が低下しており、術後呼吸器合併症の高いリスクがある。
目的は、肺切除術を予定している患者において、術前の身体機能が術後呼吸器合併症に影響するかを検証すること。

<方法>
前向き多施設共同研究。患者特性と術後呼吸器合併症をSPPBスコア10点未満と10点以上に分けた。
術後呼吸器合併症は、Clavien-Dindo classification systemのgradeⅡ以上と定義。
術後呼吸器合併症への身体機能の影響を多変量階層ロジスティック回帰分析を使用。

<結果>
SPPB≧10点が331人、SPPB<10点が33人で比較された。
SPPBスコアが低い患者では、術後呼吸器合併症が発症するリスクが非常に高かった。(p < 0.001).
SPPBスコアが低いことは、術後呼吸器合併症の高いリスクと関連していた (odds ratio, 8.80; p < 0.001)。

<考察>
SPPBは、周術期患者の身体機能評価として優れたツールである。
SPPBで低身体機能であることは、肺切除術後の呼吸器合併症を予測するかもしれない。

・POD7での呼吸器合併症の発症リスクは、SPPB10点未満は、7.02倍

2020/10/11

高齢がん患者に対する身体活動のアドバイスは身体機能低下を予防しない

Effects of a physical activity programme to prevent physical performance decline in onco‐geriatric patients: a randomized multicentre trial

J Cachexia Sarcopenia Muscle (IF: 9.802; Q1). 2019 Apr;10(2):287-297. 


<背景>
高齢がん患者は、がん自体と治療の両方の影響で長期的に身体機能の低下を経験する。運動は、年齢やがんによる機能低下を最小限にできるかもしれない。

<方法>
他施設共同無作為化試験。70歳以上のリンパ腫やがんで、治療的介入が必要であった患者を2群に分けて12か月介入。
研究開始時のがん治療の段階はいずれの段階(手術、化学療法、放射線治療)も含まれた。
通常ケア群(Usual Care Group:UCG)は、現在の身体活動に関する国際的なガイドラインをもとに介入。
介入群(Intervention Group:IG)は、身体的評価(最初の半年は月2回、その後は毎月評価)をもとに個別に身体活動のアドバイスを電話で行った。
プライマリーアウトカムは、1年後の身体機能が低下していた患者の割合(SPPB1点以上の減少を低下と定義)
セカンダリーアウトカムは、身体的、認知的、臨床的状態。

<結果>
301人の患者(76.7歳、女性60.6%)が対象。
ベースラインのSPPB中央値は、UCG10点、IG12点。
腫瘍の部位は乳がんが最も多かった(35.7%)
1年後、UCGの14.0%、IGの18.7%がSPPBスコアが1点以上減少していた。(p=0.772)
2年後、SPPBに違いはなかった。
2年後のサブグループ解析にて、乳がん患者において、UCGの29.8%、IGの5.0%がSPPBの低下を示した(p=0.006)
女性において、UCGの21.7%、IGの6.2%でSPPB低下(P = 0.019)
栄養状態が正常の患者は、UCGで24.5%、IGで11.1%でSPPB低下(P = 0.009).
転倒、入院、死亡率は、両群とも似ていた

<考察>
個別の電話による身体活動アドバイスは、1年後の身体活動の低下を抑制しなかった。
しかし、高齢の乳がん患者において、2年後の身体活動低下を予防できるかもしれないという限定的なエビデンスを示した

2020/10/10

持続透析(CHDF)中もリハビリ介入は安全

 Safety and Feasibility of Physical Rehabilitation and Active Mobilization in Patients Requiring Continuous Renal Replacement Therapy
A Systematic Review

Critical Care Medicine: July 30, 2020 - Volume Online First - Issue -



<目的>
ICUにて持続腎代替療法(continuous renal replacement therapy:CHDFなど)を行っている患者における身体的リハビリの安全性と実現可能性について検証すること

<方法>
Medline, CINAHL, PubMed, Pedro,  Cochrane Libraryを使ってこれらの患者に対する身体活動についての論文を検索
採用基準:1)18歳以上の成人でICUでのCHDFを行っている、2)身体的リハビリを行った、3)患者の安全や実現可能性について報告している。プライマリーアウトカムは、総介入中の新たなイベント発生数。

<結果>
437人の成人患者がICUでCHDFを行いながら、身体的リハビリや身体活動を行っていた。
総介入数840回中に報告された新規イベント:
2件の大きな新規イベントが発生(昇圧剤が必要な低血圧、CHDF回路はずれ。発生率は0.24%)
13件のマイナーなイベントが発生(累積発生率:1.55%)
介入の忠実度(intervention fedelity)は、ICU mobility scaleのレベル5以上(椅子への移乗、付き添い歩行、122例/715例)で発生したのは15.5%のみであり、より高い活動での発生率が低いことによって限定されていた.
これらCHDF中の介入については、一貫性がないと報告されていた。

<考察>
早期リハビリやモビライゼーション、ベッドサイドの特異的な活動は、CHDFが必要なICU患者に対して、安全に行うことができた。
これらデータの解釈をする際に、注意が必要であり、採用された研究は、質が制限されているため、限定的である必要がある。

2020/10/06

動作時低酸素血症のみのIPF患者に酸素投与は有効か?

Effect of ambulatory oxygen on exertional dyspnea in IPF patients without resting hypoxemia

Respir Med (IF: 3.095; Q1). 2013 Aug;107(8):1241-6.


<背景>
安静時低酸素血症が無いIPF患者に、動作時酸素投与を行う影響は明らかになっていない。
目的は、安静時に低酸素血症はないが、動作時に低酸素血症がある患者に対して、酸素投与を行う効果について検証すること。

<方法>
二重盲検無作為化比較試験。
安静時PaO2 60-80mmHgかつ6MWTでSpO2<88%の患者が対象。
標準的な6MWTと6分間自由歩行を室内気(空気)下と酸素投与下にて実施。
酸素と空気の投与量は4L/min。
息切れの程度を、歩行試験終了直後、1分後、2分後に評価。

<結果>
20人の患者(16人男性)、平均年齢73.5歳、%FVC 71.0%、%DLCO 57.0%、PaO2 72.5mmHg
息切れの程度は、それぞれの計測ポイントで有意差はなかった。
しかし、何人かの患者は、酸素投与にて息切れの改善を示した。

<考察>
酸素投与によって、動作時息切れ改善の追加効果(室内気と比較して有意差はない)は見られなかったため、動作時酸素投与をルーチンで処方することは、推奨されない。
しかし、個別性の検証は必要である。

・息切れ評価は修正borg scale
・6分間自由歩行試験は、快適歩行速度(日常的に歩く速さ)で6分間歩行。

・酸素投与下において、6MWT後のSpO2は改善した(歩行直後:84% vs 80%、1分後:90% vs 83%、2分後:96% vs 91%)
・歩行距離、心拍数、息切れ、下肢疲労感は有意差なし


考察
・COPDを対象にした同様の試験では、息切れや運動パフォーマンスの改善の効果はまちまいである
・cochrane reviewにおいて、動作時酸素投与によって息切れの改善を示したが、効果量は限定的であった

・IPFの息切れのメカニズムは複数の因子が関与しており、酸素化だけでなく、換気需要や呼吸筋機能、骨格筋機能、循環因子が影響する
・息切れの程度は患者によって様々であり、IPF患者において、低酸素血症は息切れの主な原因ではないことを示唆した
・動作時低酸素血症があることで、酸素を処方(在宅酸素)することは、息切れを改善させるとは限らず、患者のQOLを低下させるため、ルーチンで処方することは避けるべき

・興味深いことに、息切れBorgが1以上の改善で臨床的に有効とされるが、3人の患者でborg2以上の改善を示した
⇒低酸素が自覚症状に影響しており、酸素投与によって自覚症状の改善が得られた患者