2021/12/28

肺がん患者(NSCLC stageⅠ-ⅢB)は、身体活動レベルが低い

Low physical activity levels and functional decline in individuals with lung cancer

Lung Cancer (IF: 5.71; Q2). 2014 Feb;83(2):292-9. doi:10.1016/j.lungcan.2013.11.014.


【背景】
身体活動は、非小細胞肺がんにおいて稀に測定されている。
目的は、身体活動のレベル、身体機能、診断時と6カ月後の患者報告アウトカムをNSCLCと同年代の健常者で比較すること。

【方法】
前向き観察研究。50人のオーストラリア人、NSCLC患者で診断時StageⅠ-ⅢB
35人のがんではない健常者が対照群
ベースライン、10週後、6ヶ月後に評価
アウトカムは、3軸加速度計(歩数)、6MWD、筋力、HRQOL

【結果】
NSCLCは、同年代の健常者と比べて身体活動が低かった。
診断時の筋力、栄養状態、HRQOLも悪化していた。
6ヶ月後、NSCLC患者において、患者報告型の身体活動、6MWDが低下しており、症状も悪化していた。

【考察】
NSCLC診断時、身体活動は低下しており、健常者よりもより虚弱で抑うつ傾向であった。
6ヶ月後の身体活動も低下していた。
今後、身体活動を向上させるための有効な介入についての介入が求められる。

・プライマリーアウトカム:身体活動
3軸加速度計で測定した1日の歩数。週末を含む5日間装着。
自己報告型の身体活動としてPASEを評価。スコアが高いほど活動量が高い。最高400点、高齢者の平均は103点。
WHOの基準と比べ、週150分以上を十分、149分未満を不活動、0分をsedentaryとした。

・セカンダリーアウトカム:6MWD、運動負荷試験(CPET)、大腿四頭筋、前脛骨筋、回線筋腱板、握力、パフォーマンスステータス(PS)、HRQOL(SF-36)、HADS、

・結果
ベースラインのPA:NSCLC患者は、健常者と比べて歩数が平均2363歩少なく、PASEスコアは78点低かった
歩数はベースラインと6ヶ月後でほぼ維持されていたが、PASEスコアは減少していた。6MWDは減少傾向(table3)

・考察
身体活動が早期に低下している
 →化学療法や放射線治療と同様に手術の影響している可能性。診断後にPAを向上させるための理学療法や運動プログラムが必要。
NSCLC患者でPAが低い原因
 →がん関連症状の影響やCOPDのような喫煙に関連した合併症など様々な影響が関連している可能性
十分な身体活動は、疾患による負担(症状、副作用、感情機能、HRQOL)を改善させる可能性があり、診断時の運動耐容能と生存率の改善の関連も報告されている。

PAと生存率の関係を報告したものはないため、今後の研究が必要。

・実測したPAレベルは変わりなかったが、患者報告型のPAは減少していた
 →診断初期に活動量計を装着できていた患者が少なく(56%)、10週後や6ヶ月後は40%程度だった。患者コンプライアンスの問題。


2021/12/22

がん患者の予測アウトカムとしての身体機能評価

Physical performance measures for predicting outcome in cancer patients: a systematic review

Acta Oncol (IF: 4.09; Q3). 2016 Dec;55(12):1386-1391.


【背景】
がん治療の意思決定は、挑戦的であり、これら意思決定を支持できる臨床パラメーターが必要である。
身体パフォーマンスは、健康状態を反映することができる。このシステマティックレビューでは、身体パフォーマンステスト(Physical Performance Test:PPTs)が、がん患者の治療耐性や臨床アウトカムの予測となるかを検証した。

【方法】
2015年4月にデータベースを検索。PPTs測定とアウトカムの関係を調べた研究が対象。
言語や発行日の制限は適応しなかった。

【結果】
9680の文献がヒット。様々ながんのタイプ、異なる治療を行った16文献、4187人の患者が対象。
中央値or平均年齢は58-78歳。
9つの文献でTUG、5つの文献でSPPB、5つの文献で歩行速度に注目。
TUG、SPPB、歩行速度の結果が悪いと、生存率の低下と関連していた。
さらに、2つの文献で、TUG、SPPBのアウトカムの悪化は、機能低下の割合が高いことと関連していた。

【考察】
PPTsは、生存率と著明に関連しており、これらのテストは高齢患者の予測ツールとして有用である。治療に関連する合併症と機能低下については、あまり明確ではない相関関係がみられた。
最適な意思決定のために、今後の研究ではがん関連・治療関連の妥当性に加えて、PPTsを治療アルゴリズムに組み込んで妥当性や効果を検証すべきである。

・治療合併症について
5文献中4つで治療関連の合併症と身体パフォーマンスとの関係を報告。
2つ文献でTUGと関連。
SPPBを使用した文献のうち3つのうち2つで、単変量解析を行い、最終的に歩行速度が治療関連合併症と関連していた。

地域高齢者を対象とした研究で、歩行速度が1.36m/sより遅くなると、死亡を含む健康状態の悪化と関連していた。
さらに、身体パフォーマンスの低下は、身体活動低下の悪循環となるかもしれず、デコンディショニングを反映しているかもしれない。

今回の対象としたパフォーマンステストが、活動性と関連しているだけでなく、握力や運動耐容能テストのようなツールも含めて、パフォーマンステストとなりえるかどうか今後検討が必要である。

サルコペニアと誤嚥性肺炎

Association between sarcopenia and pneumonia in older people

Geriatr Gerontol Int (IF: 2.73; Q3). 2020 Jan;20(1):7-13.


肺炎は、高齢者の主な死亡原因であり、死亡数は上昇している。現在の肺炎管理ガイドラインは、病理思考型戦略による抗菌薬治療が基になっている。
肺炎で入院している高齢患者は、誤嚥性肺炎の発生率が高い。
誤嚥性肺炎の主な原因は、嚥下と咳嗽反射の障害である。
これらの要素は、現在の管理戦略の限界を示しており、新たな治療戦略が必要である。

サルコペニアは、加齢による筋力と筋肉量の減少、身体機能低下である。
近年、嚥下筋の筋力・筋量低下と、嚥下機能障害との関連が示唆されている。

全身性および嚥下筋のサルコペニアによる嚥下障害のことを”サルコペニア嚥下障害”と呼ばれている。
いくつかの研究で、誤嚥性肺炎とサルコペニア嚥下障害の関係が報告されている。

咳嗽反射と咳嗽力は誤嚥性肺炎を予防し、咳嗽力は呼吸筋力によって規定される。

いくつかの研究で、高齢者の肺炎と筋力の関連が報告されている。
サルコペニアは高齢患者の肺炎のリスク因子であり、誤嚥性肺炎で入院した患者で筋肉量が低いと高い死亡率を示す。

動物モデルと人間において、呼吸筋、嚥下筋、骨格筋の筋萎縮は誤嚥性肺炎を引き起こす。

呼吸筋力と肺炎の関係は現在調査中である。

サルコペニアの評価と管理は、高齢肺炎患者の予防と治療の新たな治療戦略となり得るかについての研究は最近始まったばかりである。

【サルコペニア嚥下障害】
オトガイ舌骨筋と舌筋は主な嚥下筋であり、舌圧は主に嚥下筋力の指標として用いられる。
高齢者のオトガイ舌骨筋は、若年者と比べて、筋肉量が少なく、脂肪浸潤が多い。
オトガイ舌骨筋の減少は、嚥下機能の低下を招く。
舌圧が良好であると、経口摂取の機能が良い。

いくつかの報告で、全身筋力と嚥下機能が関連している一方で、舌圧は握力と関連していた。
高齢入院患者において、サルコペニアは嚥下障害のリスク因子である。

サルコペニア嚥下障害を最初に報告した論文(2012年)では、水嚥下テストと上腕周径に軽度の相関を認めた。
嚥下障害は嚥下反射障害だけでなく、全身と嚥下筋の筋力低下も関連している。

【誤嚥性肺炎のリスク因子と予防】
口腔内細菌の誤嚥による下気道感染症が誤嚥性肺炎の原因として最も重要。
高齢者において、不顕性誤嚥が他の病理タイプよりも、肺炎の原因として最も多い。

嚥下障害によって誤嚥は生じるが、咳嗽によって気道外へ除去されれば、肺炎になることは稀である。

サブスタンスPは咳嗽反射と嚥下に影響する神経伝達物質である。アンジオテンシン変換酵素(ACE)はサブスタンスPを分解する。
Yamayaらは、抗菌薬治療は肺炎を予防せず、誤嚥したものの病原菌をへらすことが重要であると示した。
口腔ケアは、肺炎の発生率を減少させる。

ACE阻害薬は、咳嗽と嚥下反射の感度を向上させる。
さらに、脳卒中患者において、ACE阻害薬は肺炎の発症を予防した。

カプサイシンは、サブスタンスPの放出を促進し、嚥下反射を改善させる。

肺炎の再発のリスク因子として、肺がん、COPD、吸入ステロイド、睡眠薬があり、一方、ACR阻害薬は再発リスクを減少させた。

2021/12/16

間質性肺疾患の骨格筋

Skeletal muscle atrophy in advanced interstitial lung disease


 Respirology (2015) 20, 953–959


http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26081374

 

背景

間質性肺疾患(interstitial lung disease:ILD)患者個々の骨格筋機能異常に関する検討は少ない。我々は、進行したILDと健常群で上肢と下肢の筋肉の大きさと強さを比較した2つ目に筋肉の大きさと強さと機能について検討した。

 

方法

進行したILD患者は肺移植のリストに記載されており、健常者は研究された。Bモードの超音波で大腿直筋の横断腓腹筋ヒラメ筋上腕二頭筋の厚さを計測した対象は、等尺性筋力テストShort Physical Performance Battery:SPPBTimed Up and Go非支持型上肢運動テストを実施

 

結果

26人の進行したILD(平均年齢61歳FVC2L%FVC49%)と12人の年齢性別をマッチさせた健常群健常群と比べてILD患者は大腿直筋の横断面が小さく、膝伸展筋力と底屈筋力が弱かったが、上腕二頭筋はそうではなかったILD患者において、大腿直筋の横断面と膝伸展筋力 (r = 0.63; P < 0.01)上腕二頭筋厚(r = 0.78;P < 0.01)、肘伸展筋力(r = 0.78;P < 0.01)は中等度の相関が認められた

 

考察

進行したILD患者は、下肢筋の萎縮と筋力低下が認められた今後の研究で進行したILD患者に対しての運動の効果を評価すべきである。

 

・対象患者は、40以上で肺移植を待機している患者で、移植前リハビリテーションプログラムを少なくとも4週間実施している。6MWDは375±114m

・筋肉のサイズで有意差があったのは大腿直筋横断面、腓腹筋とヒラメ筋が重なっている部分の厚さ。上腕は有意差なし。

・筋力で有意差があったのは、膝伸展と足関節底屈筋力。これも上肢は有意差なし。

・身体機能では、上肢の耐久性テスト、TUGSPPB合計

・下肢筋群が特に低下しているのは廃用によるものだろう。上肢筋力が保たれるのは先行研究と同じ。また、COPDと似た結果。

・肺疾患の筋機能異常の原因は、廃用、低酸素、低栄養、酸化ストレス、組織的炎症、薬剤など多岐にわたる。



大腿直筋横断面積(CSA)と膝伸展筋力の相関


2021/12/07

SPPBのMCID (COPD 1点)

Short Physical Performance Battery: Response to pulmonary rehabilitation and MCIDs in patients with COPD

European Respiratory Journal 2021 58: PA307;


【背景】
SPPBは、活動性やバランス評価のために、COPD患者でよく用いられている。
呼吸リハの反応性やMCIDについての情報は少ない。

【目的】
COPD患者における、SPPB項目とスコアに関しての、呼吸リハの反応性とMCIDを推定すること。

【方法】
後方視研究。
632人のCOPD患者(平均年齢65歳、男性50%、%FEV1.0 43%)
SPPBは、3種類の立位バランス、4m歩行速度、5回起立テストで構成される。
MCIDは、アンカーベース(アンカー:CAT、6MWT)、ディストリビューションベースで推定。

【結果】
5回起立(∆=1.14 (-4.20- -0.93) sec)、SPPB合計スコア(∆=1 (0-2) points)が、呼吸リハ後に改善
MCIDは、アンカーにした項目との相関が得られず、推定できなかった。
ディストリビューションベース法で推定したMCIDは、
閉脚立位:0.51-0.67 sec
セミタンデム: 0.64-0.78 sec
タンデム:1.80-2.03 sec
4m歩行速度:0.05-0.31 m/s 
5回起立:2.19-6.33 sec
SPPB合計スコア:0.81-0.96 points

【考察】
5回起立とSPPB合計スコアは、COPDの呼吸リハ前後で反応性を示した。
ディストリビューションベースで算出したMCIDは、SPPB合計スコア1点。
今後、異なる施設でのSPPB下位項目のMCIDを算出する必要がある。

急性呼吸不全で入院した患者に対して、標準的なリハは、入院日数は短縮するか。RCT JAMA2016

Standardized Rehabilitation and Hospital Length of Stay Among Patients With Acute Respiratory Failure: A Randomized Clinical Trial

JAMA (IF: 56.27; Q1). 2016 Jun 28;315(24):2694-702.


【背景】
ICUでの身体的リハビリテーションは、急性呼吸不全患者のアウトカムを改善させるかもしれない。

【目的】
急性呼吸不全患者に対して、ICUでの通常ケアと、標準化されたリハビリ(standardized rehabilitation therapy ; SRT)を比較すること。

【方法】
ノーズカロライナ州のWake Forest Baptist Medical Centerで行われた。
単施設、ランダム化試験。
急性呼吸不全でICUに入院し、人工呼吸が必要になった成人患者(平均年齢58歳、女性55%)が対象で、ランダムに、標準ケア(SRT、n=150)、通常ケア(n=150)に分けた。

【介入】
SRTグループ:退院まで毎日治療をした。
他動的ROMex、理学療法、漸増レジスタンストレーニング。
通常ケアグループ:臨床チームから要請があってから、平日に理学療法を実施。

SRTグループの介入日数は、他動的ROMexが中央値8日(IQR5-14)、理学療法は5日(3-8日)、漸増レジスタンストレーニングは3日(1-5日)
通常ケアグループで、理学療法を行った日数の中央値は1日(0-8日)

【主なアウトカムと評価】
評価のタイミング:ICU入室時、退院時、2.4.6ヶ月後
プライマリーアウトカム:入院日数(LOS)
セカンダリーアウトカム:人工呼吸器装着日数、ICU日数、SPPBスコア、SF-36、Functional Performance Inventory (FPI) score,、MMSE、握力、ハンドヘルドダイナモメーターの筋力

【結果】
300人をランダム化
LOS:SRTグループ10日(6-17日) vs 通常ケアグループ10日(7-16日)
人工呼吸器装着日数とICU日数は、グループ間で差はなし。
6ヶ月後に差がなかった項目:握力、ハンドヘルドダイナモメーターの筋力、SF-36精神ドメイン、MMSEスコアに差はない
6ヶ月後にSRTグループが高かった項目:SPPBスコア(difference, 1.1 [95% CI, 0.04 to 2.1, P = .04)、SF-36身体ドメイン(difference, 12.2 [95% CI, 3.8 to 20.7], P = .001)、FPIスコア (difference, 0.2 [95% CI, 0.04 to 0.4], P = .02).

【考察】
急性呼吸不全でICUに入院した患者において、SRTは、通常ケアと比べてLOSを短縮しなかった。

・SRTプロトコル
運動の種類:他動的ROMex、理学療法、漸増抵抗運動
 他動的ROMex:上下肢の関節を5回ずつ動かす。
 理学療法:離床、移乗練習、バランス練習
 抵抗運動:背屈、膝屈伸、股関節屈曲、肘屈曲伸展、肩屈曲。抵抗はセラバンドを使用。

頻度:リハビリチーム(PT、nurse、看護助手)によって、週7回、入院中毎日、セッションを3回にわけて介入
理学療法と抵抗運動は患者の達成できるようなレベルで実施。
患者が耐えられない場合は、3セッションとも他動的ROMexのみ。

入院日数に有意差なし



2021/12/02

肺がん患者の身体活動と運動 oncologist 2020 review

Physical Activity and Exercise in Lung Cancer Care: Will Promises Be Fulfilled?

 Oncologist (IF: 5.03; Q1). 2020 Mar;25(3):e555-e569.


肺がんは、世界のがん関連死亡の主要原因である。
疾患の治療効果は進歩しているが、しばしば疾患に関連した症状(息切れ、咳嗽、疲労感、不安、抑うつ、不眠、疼痛)によって衰弱している。
身体活動と運動は、疲労感、QOL、心肺機能、肺機能、筋肉量と筋力、心理的要素を改善させる非薬物療法である。
さらに、運動(fitness)レベル、特に心肺耐久性と筋力は、生存の独立した予測因子である。
それにも関わらず、肺がん患者は、身体活動と運動のレベルが満足なレベルになく、QOLの低下や骨格筋弱化や萎縮、症状の悪化、特に息切れの悪化を引き起こす。
肺がん患者の体力や治療成績に運動が影響を与える可能性のある分子基盤は、まだ解明されていない。
特定のがん細胞が獲得した能力(がんの特徴)に対抗することや、治療による有害事象を防ぐことが、主な候補となるメカニズムである。
肺がん患者の身体活動と運動が影響する可能性については十分に理解されておらず、肺がん患者のガイドラインで運動に特化したものはない。

この論文では、身体活動と運動を支持するエビデンスを徹底的にレビューし、栄養や心理的介入も考慮した国際的、多面的に集約した介入がより有効であると考える。

術後や治療後の運動の効果や安全性に関するエビデンスは増えているが、ほとんどの患者は不十分な活動や安静にしている。

運動プログラムに参加することは、肺がん患者にとって負担の大きいことであるが、身体的・心理的な疾患特異的なバリアが主な原因である(喫煙の偏見"stigma"を含む)。

腫瘍学の専門家とがん運動の専門家が共同することは、患者の求めていることや好み、精神心理的状態に基づいた個別的なプロブラムのために必要である。

この点について、多面的に患者のより良い生活にアプローチすることで、運動の効果も向上することが期待される。

運動の効果(身体的、生理学的、心理的に有益)