2022/04/27

NSCLC 術後合併症の発生を予測する6MWT予測値

Prognostic Value of 6-Min Walk Test to Predict Postoperative Cardiopulmonary Complications in Patients With Non-small Cell Lung Cancer

Chest (IF: 9.41; Q1). 2020 Jun;157(6):1665-1673.


【背景】
非小細胞肺がん(NSCLC)で中等度肺機能が低下した患者において、6MWTが切除術リスク層別化となり得るかについては、解明されていない。

【目的】
NSCLCで葉切除を実施し、中等度肺機能が低下した患者において、術後心肺合併症の予測としての6MWTの役割について検討する事。

【方法】
前向きコホート研究。
NSCLCで葉切除を行う予定の患者を術後予測肺機能で2グループに分けた。(低リスクor中等度リスク)
それぞれのグループで6MDが短い(400m未満)と長い(400m以上)に分けた。
主要エンドポイントは術後30日以内の心肺合併症の発生。
多変量ロジスティック回帰モデルにて、これら4グループで術後合併症を比較。

【結果】
低リスク/長距離グループと比較して、中等度リスク/短距離の患者の調整されたORsは、
術後呼吸器合併症:10.26 (95% CI, 2.37-44.36)
循環器合併症:5.65 (95% CI, 1.39-22.90)
心肺合併症:7.84 (95% CI, 2.24-27.46)
これら合併症のリスクは、中リスク/長距離と低リスク/長距離に違いはなかった。
中リスクグループの患者において、短距離グループでは長距離と比べて、術後心肺合併症のリスクが高かった。(adjusted OR, 4.95; 95% CI, 1.37-17.93).

【考察】
中リスク/短距離のNSCLC患者は、術後合併症の発生リスクが高かった。
ただし、中リスク/長距離患者は、低リスク/長距離患者と比べ、葉切除術を受けることが可能かもしれない。
今回の結果は、NSCLCの肺切除術を行う最適な候補者を同定するために、6MWTが追加の情報を提供するかもしれない。

2022/04/13

肺がん術前の不活動は術後経過に影響する

Preoperative Physical Inactivity Affects the Postoperative Course of Surgical Patients with Lung Cancer

Phys Ther Res. 2021; 24(3): 256–263. 


【目的】
術前パフォーマンスステータス(PS)は胸部手術において重要な要因である。
術前身体活動(PA)が術後経過に影響するかは明らかになっていない。
肺がん手術において、術前PAと術後合併症や臨床的アウトカムとの関連を調べた。

【方法】
肺がん手術を行った患者を対象にした、単施設、前向き観察研究。
PAは、入院5日前から術後退院するまで測定。
歩数と中等度強度以上(3METs以上)の活動時間を加速度計で測定。
PAと術前身体機能、運動能力の関連と、術後合併症とPAの関係について検討した。
多変量解析にて、入院前のPAを従属因子として解析。

【結果】
42人の患者が対象
単変量解析では、入院前PAと入院前肺機能に関連無し。
入院前PAと中等度強度活動時間、入院中PA、術前6MWD、最大歩行速度に正の相関あり(r>.05,p<.01)
9人の患者で合併症が発生し、入院前と術後の歩数が、合併症の無い患者よりも少なかった(p=.04)
多変量回帰分析にて、入院前PAは、中等度強度活動時間、最大歩行速度、術後合併症と関連していた。

【考察】
術前PAの評価は、肺がん術後の経過の予測に有用である。

<背景>
・PSは患者の状態を簡便に反映するが、活動レベルまでは完全に反映していない。
・日本のがんデータベースでは、肺がん発生率は上昇しており、手術治療も増えている。
・周術期呼吸理学療法は、在院日数や術後合併症の減少に寄与する。
・肺がん患者の身体活動については、入院中の活動量と術後合併症の関係については報告されているが、術前身体活動と術後経過についての報告はない。
・本研究の目的は、肺がん術前身体活動と、身体機能、術後合併症との関係を調べること。そして、入院前身体活動に関連する臨床的な変数を特定する事。

<方法>
・2016年9月から2017年4月に日本の単施設(showa general hospital)で行われた。
・適格基準:18歳以上の肺がんで手術を行った患者。
・除外基準:運動に影響する合併症を有する、参加拒否
・術後合併症の定義:Clavien-Dindo grade ≤ IVa(人工呼吸管理が48時間以上、無気肺、細菌性肺炎、不整脈、せん妄、5日以上のエアリークのための胸腔ドレナージ)
・身体機能の評価項目:大腿四頭筋力(ハンドヘルドダイナモメーター)、握力、6MWT、10m歩行速度、呼吸筋力として最大吸気/呼気圧(MIP/MEP)
・身体活動量の計測:加速度計(ライフコーダー)を使用。中等度から高度(3MET以上)の活動を身体活動として採用。入院前5日間計測し、入院中は最後の5-7日間計測。

・理学療法内容:手術1-2日前にリハ処方。術後合併症予防のための術後早期離床、気道クリアランスのための深呼吸、咳の仕方について指導。
術後、ATS/ERSガイドラインに沿って、手術翌日より離床開始。術後1日目は30分の椅子座位と30-50分の歩行を指導。2日目以降は、可能な限り離床、歩行を行った。加えて、疼痛やバイタルのモニタリングをしながら30-40分のレジスタンストレーニングやエルゴを退院まで実施。
入院中は、身体活動に関しての介入は行っていない。

<統計>
正規性→Shapiro-Wilk test
変数の相関→Pearson's or Speraman's 相関係数
術前PAと関連する変数の同定→多変量回帰分析
肺機能、身体機能、歩数、3METs以上の活動時間、合併症の発生率を従属変数として、ステップワイズ法

<結果>
・42人が対象。対象の90%がPS0か1。
・術後合併症は9人に生じた。複数の合併症を起こした患者はいなかった。
・全患者が術後1日目に歩行でき、退院までイベントを起こすことなく自宅退院した。
・合併症発生患者は、高齢、6MDが短い、入院中の歩数が少ない、術前歩数が少ない。


・入院前身体活動と関連していた変数
→術前身体機能、運動耐容能、入院中の歩数、入院前の活動時間

・術前身体活動(歩数)に関連する因子(多変量解析)
→術前身体活動レベル(p<.001)、術前最大歩行速度(p<.001)、術後合併症(p=.03)

<考察>
・先行研究にて、術後PAが低いと入院日数が長い→今回の結果も術後合併症がある患者は入院中PAが少なかった。しかし、全患者が術後自宅退院できたことは、周術期リハの効果と考えられる。
・Marikeらは、入院中の活動量は肺がん手術後の退院時身体機能と強く関連すると述べている→今回の結果は、入院中のみならず、入院前も身体不活動による術後合併症の予防や身体機能の改善と関連しているかもしれない。
・低肺機能患者は、術後合併症のハイリスクとされるが、今回の対象患者は肺機能良好であったため、合併症の発生はほかの要因が関連していると示唆。
・肺機能が良好な患者は身体機能を含めた多次元的な評価をすべである。
・呼吸筋力に関して、今回は合併症の予防とは関連していなかったが、術前PAとは中等度の関連があった。呼吸筋トレーニングが活動レベル向上に関連するかは検討が必要。
・歩行速度と運動強度は、活動レベル全体に影響していることを示唆。
・最近、肺がん患者のPAの重要性が示されており、地方自治体とPA向上の取り組みが推奨される。
・低活動と抑うつは肺がんと関連しており、PA評価は術後フォローに重要。

<研究限界>
・単施設研究であり、症例数に限りがある
・良好な肺機能患者のみがエントリー。
・PA測定ですべての季節をカバーしていない。

2022/04/12

肺がん患者:身体活動とHRQOL、抑うつ症状に中等度の関連

Association between physical activity and patient-reported outcome measures in patients with lung cancer: a systematic review and meta-analysis

Qual Life Res (IF: 4.15; Q1). 2022 Jan 21. 


【目的】
肺がん患者の身体活動(PA)と患者報告アウトカム( Patient-Reported Outcome Measures:PROMs)の健康関連QOL(HRQO)の関係についてのシステマティックレビューを行うこと。

【方法】
2021年10月5日にデータベースを検索。
検索対象:PAレベルとHRQOLやその他のPROMsとの関連を調べた文献
バイアスリスクの評価は、the Johanna Briggs Institute Critical Appraisal Toolsを使用。
PAレベルとその他のPROMs
PAとそれぞれのPROMsとの関連の強さをメタ分析で解析。

【結果】
独立した二人のレビュアーによって、1000文献のうち、23件が最終的に解析対象となった。
PAと一般的HRQOL(r = 0.41; 95% CI: 0.21 - 0.57; p < .0001) 、抑うつ(r = -0.33; 95% CI: -0.44, -0.19; p < .001)に中等度の関連。
疲労感(r = -0.23; 95% CI: -0.3, -0.17; p < .001) 、息切れ(r = -0.25; 95% CI: -0.33, -0.16; p < .001)とはわずかな関連。
不安、睡眠とは関連を認めなかった。

【考察】
多くの研究はいくつかのバイアスリスクを含んでいた。
一般的なPAを行っていることは、症状の程度に関わらず、全体的に良いHRQOLや感情機能と関連がみられた。

2022/04/09

肺高血圧症の運動療法

Standardized exercise training is feasible, safe, and effective in pulmonary arterial and chronic thromboembolic pulmonary hypertension: results from a large European multicentre randomized controlled trial

European Heart Journal, Volume 42, Issue 23, 14 June 2021, Pages 2284–2295,


【目的】
この前向きランダム化、対照群、多施設研究の目的は、肺高血圧症(PAH)と慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)患者に対する運動療法が有効で安全であるかを検討すること。

【方法と結果】
欧州10か国、11の施設において、PAH/CTEPHに特化したリハビリプログラムを実施。
129人の患者がエントリーされ、疾患特異的薬物療法を完了した116人(58人ずつをランダムに2群に振り分け)が対象(85人女性、平均年齢53.6歳、平均肺動脈圧46.6mmHg:WHO機能分類で、class2 53%、class3 46%;PAH98人、CTEPH18人)。
トレーニンググループは、病院にて標準化されたリハプログラムを平均25日間実施し自宅でも継続した。
プライマリーエンドポイントは、6MWDの変化で、トレーニンググループにおいて平均34.1m向上(95%CI:18-51m、p<.0001)。
運動療法は実施可能で、安全であり、良好な忍容性を認めた。
セカンダリーエンドポイントはQOLもSF-36の精神項目で7.3ポイントの向上を認めた(p=.004)。
WHO機能的クラス分類(training vs. control: improvement 9:1, worsening 4:3; χ2P = 0.027) と最大酸素消費も対照群と比較して、運動したグループで改善を認めた(0.9 ± 0.5 mL/min/kg, P = 0.048) 。

【考察】
これは最初の対施設間の大規模ランダム化比較試験で、PAHとCTEPH患者において、薬物療法に運動療法を加えることが安全、実現可能、有効であることを示した。
この研究を含め、標準的な病院でのプログラムが開始されており、欧州10か国において成功した。

・欧州10か国(オーストリア、ベルギー、ドイツ、イタリア、リトアニア、オランダ、ポルトガル、スコットランド、スペイン、スイス)の11施設において、共通のプロトコルを使用した運動療法を実施
・対象基準:前毛細血管性肺高血圧症(precapillary PH):右心カテーテルでPAHもしくはCTEPHと診断された患者。18歳以上、WHOクラス分類Ⅱ-Ⅳ、最低2か月間PAHをターゲットにした治療を行っている。
・除外基準:門脈圧亢進症や複合型先天性心疾患によるPH、HIV、肺静脈閉塞性疾患。さらに、離床的に関連する肺疾患、左心疾患、活動性肝疾患、急性感染症、歩行不可、ヘモグロビンが正常値の75%未満、収縮期血圧<85mmHg、最近の失神、運動に影響する筋の問題。

・研究期間:15週間。ランダムにトレーニンググループ、コントロールグループに分けた。
トレーニンググループ:最初の10-30日は院内(stayed in-house)で行い、その他11-12週を自宅でプログラムを実施。
コントロールグループ:自宅にて通常通りの活動を実施。

・プライマリーエンドポイント:ベースラインと15週目の6MWDの変化。
・セカンダリーエンドポイント:ベースラインと15週目の最大酸素消費量の変化、WHOクラス分類、NT-proBNP、QOL、安静時と運動負荷試験時の心電図異常の有無

・トレーニンググループの内容:最初の期間は5-7日/週、自宅では3-7日/週。
運動強度は、ベースライン運動テストでの最大負荷の40-60%。




2022/04/02

GAP indexに6MWDや動作時低酸素を加えると、予後予測精度向上

Derivation and validation of a simple multidimensional index incorporating exercise capacity parameters for survival prediction in idiopathic pulmonary fibrosis

Thorax (IF: 9.14; Q1). 2022 Mar 24;thoraxjnl-2021-218440.


【背景】
GAP indexはIPF患者の予後予測モデルとして簡単に用いることができる。GAP indexは、6MWDや動作時低酸素などの運動パラメーターが含まれていない。
GAPindexに6MWDと動作時低酸素を加えた場合、IPFの生存予測を改善するかを検討した。

【方法】
三次紹介医療センターのIPF患者。
オリジナルのGAP indexで患者を評価。
コホート患者は、ランダムにGAP indexに6MWDを加えたグループと低酸素を加えたグループに分けられ、導入(derivation)と妥当性(validation)を評価した。
識別力の強い方を最終モデルとして採用。
このモデルの適用は、地理的に異なる別のコホートで評価された。

【結果】
562人のIPF患者が内部コホートに参加。
オリジナルGAP indexはC統計量で0.676であり、過大評価のリスクがあると評価された。
6WMDと動作時低酸素は死亡の強い予測因子であった。
これらの変数をGAP indexに加えると、著明に識別力が向上した。
運動パラメーターを加えた改訂版では、高い内的妥当性(Internal validation)と、外的妥当性(External validation)を示した。

【考察】
運動パラメーターをオリジナルのGAP indexに加えると、ベースラインのポイントでのIPF患者の予後予測を良好なものにするかもしれない。

GAP indexとは?・・IPF患者の重症度分類

・6MWDは先行研究より、最も良く生存を予測していた250mをカットオフとした。
250mを下回ると、1年後の死亡リスクが2倍に増える。
・動作時低酸素の定義は、酸素処方されている(IPFが要因で、重度の安静時低酸素もしくは動作時低酸素に関わらず)、もしくはルームエアの6MWTでSpO2<88%.