2022/04/13

肺がん術前の不活動は術後経過に影響する

Preoperative Physical Inactivity Affects the Postoperative Course of Surgical Patients with Lung Cancer

Phys Ther Res. 2021; 24(3): 256–263. 


【目的】
術前パフォーマンスステータス(PS)は胸部手術において重要な要因である。
術前身体活動(PA)が術後経過に影響するかは明らかになっていない。
肺がん手術において、術前PAと術後合併症や臨床的アウトカムとの関連を調べた。

【方法】
肺がん手術を行った患者を対象にした、単施設、前向き観察研究。
PAは、入院5日前から術後退院するまで測定。
歩数と中等度強度以上(3METs以上)の活動時間を加速度計で測定。
PAと術前身体機能、運動能力の関連と、術後合併症とPAの関係について検討した。
多変量解析にて、入院前のPAを従属因子として解析。

【結果】
42人の患者が対象
単変量解析では、入院前PAと入院前肺機能に関連無し。
入院前PAと中等度強度活動時間、入院中PA、術前6MWD、最大歩行速度に正の相関あり(r>.05,p<.01)
9人の患者で合併症が発生し、入院前と術後の歩数が、合併症の無い患者よりも少なかった(p=.04)
多変量回帰分析にて、入院前PAは、中等度強度活動時間、最大歩行速度、術後合併症と関連していた。

【考察】
術前PAの評価は、肺がん術後の経過の予測に有用である。

<背景>
・PSは患者の状態を簡便に反映するが、活動レベルまでは完全に反映していない。
・日本のがんデータベースでは、肺がん発生率は上昇しており、手術治療も増えている。
・周術期呼吸理学療法は、在院日数や術後合併症の減少に寄与する。
・肺がん患者の身体活動については、入院中の活動量と術後合併症の関係については報告されているが、術前身体活動と術後経過についての報告はない。
・本研究の目的は、肺がん術前身体活動と、身体機能、術後合併症との関係を調べること。そして、入院前身体活動に関連する臨床的な変数を特定する事。

<方法>
・2016年9月から2017年4月に日本の単施設(showa general hospital)で行われた。
・適格基準:18歳以上の肺がんで手術を行った患者。
・除外基準:運動に影響する合併症を有する、参加拒否
・術後合併症の定義:Clavien-Dindo grade ≤ IVa(人工呼吸管理が48時間以上、無気肺、細菌性肺炎、不整脈、せん妄、5日以上のエアリークのための胸腔ドレナージ)
・身体機能の評価項目:大腿四頭筋力(ハンドヘルドダイナモメーター)、握力、6MWT、10m歩行速度、呼吸筋力として最大吸気/呼気圧(MIP/MEP)
・身体活動量の計測:加速度計(ライフコーダー)を使用。中等度から高度(3MET以上)の活動を身体活動として採用。入院前5日間計測し、入院中は最後の5-7日間計測。

・理学療法内容:手術1-2日前にリハ処方。術後合併症予防のための術後早期離床、気道クリアランスのための深呼吸、咳の仕方について指導。
術後、ATS/ERSガイドラインに沿って、手術翌日より離床開始。術後1日目は30分の椅子座位と30-50分の歩行を指導。2日目以降は、可能な限り離床、歩行を行った。加えて、疼痛やバイタルのモニタリングをしながら30-40分のレジスタンストレーニングやエルゴを退院まで実施。
入院中は、身体活動に関しての介入は行っていない。

<統計>
正規性→Shapiro-Wilk test
変数の相関→Pearson's or Speraman's 相関係数
術前PAと関連する変数の同定→多変量回帰分析
肺機能、身体機能、歩数、3METs以上の活動時間、合併症の発生率を従属変数として、ステップワイズ法

<結果>
・42人が対象。対象の90%がPS0か1。
・術後合併症は9人に生じた。複数の合併症を起こした患者はいなかった。
・全患者が術後1日目に歩行でき、退院までイベントを起こすことなく自宅退院した。
・合併症発生患者は、高齢、6MDが短い、入院中の歩数が少ない、術前歩数が少ない。


・入院前身体活動と関連していた変数
→術前身体機能、運動耐容能、入院中の歩数、入院前の活動時間

・術前身体活動(歩数)に関連する因子(多変量解析)
→術前身体活動レベル(p<.001)、術前最大歩行速度(p<.001)、術後合併症(p=.03)

<考察>
・先行研究にて、術後PAが低いと入院日数が長い→今回の結果も術後合併症がある患者は入院中PAが少なかった。しかし、全患者が術後自宅退院できたことは、周術期リハの効果と考えられる。
・Marikeらは、入院中の活動量は肺がん手術後の退院時身体機能と強く関連すると述べている→今回の結果は、入院中のみならず、入院前も身体不活動による術後合併症の予防や身体機能の改善と関連しているかもしれない。
・低肺機能患者は、術後合併症のハイリスクとされるが、今回の対象患者は肺機能良好であったため、合併症の発生はほかの要因が関連していると示唆。
・肺機能が良好な患者は身体機能を含めた多次元的な評価をすべである。
・呼吸筋力に関して、今回は合併症の予防とは関連していなかったが、術前PAとは中等度の関連があった。呼吸筋トレーニングが活動レベル向上に関連するかは検討が必要。
・歩行速度と運動強度は、活動レベル全体に影響していることを示唆。
・最近、肺がん患者のPAの重要性が示されており、地方自治体とPA向上の取り組みが推奨される。
・低活動と抑うつは肺がんと関連しており、PA評価は術後フォローに重要。

<研究限界>
・単施設研究であり、症例数に限りがある
・良好な肺機能患者のみがエントリー。
・PA測定ですべての季節をカバーしていない。