2021/01/26

間質性肺疾患のインターバルトレーニングの効果

Interval aerobic exercise in individuals with advanced interstitial lung disease: a feasibility study

Physiother Theory Pract (IF: 1.624; Q2). 2019 Oct 18;1-9. 


<背景>
有酸素運動は、間質性肺疾患(ILD)患者のリハビリで行われている。しかし、トレーニング方法としてインターバルトレーニングについてはあまり知られていない。
目的は、進行したILD患者におけるインターバルトレーニングと持続トレーニングの心肺機能の反応を比較すること。

<方法>
最大運動負荷(Wpeak)を運動負荷試験(CPET)で評価。
運動の総量は、インターバルサイクリング(Wpeak100%を30秒+30秒安静を20分)と持続サイクリング(Wpeak50%を20分)でマッチさせた。

<結果>
9人の肺移植待機患者が対象。男性4名、平均62歳
%FVC:60%。全症例が酸素療法を実施。
8人の患者がインターバルトレーニングを好んだ。
1人の患者は、持続サイクリング中に2回意図しない休憩をとった。
インターバルトレーニングと持続トレーニングで、いくつかの傾向は見えたが、明らかな違いはなかった。
インターバルトレーニングでは、結果として、最大心拍数が低く(124 vs 132,P=.04)、desaturationが少ない(8% vs 11%,p=.05)傾向にあり、運動後の下肢疲労感の自覚症状が低かった(3.08 vs 4.4,p=.05)。
運動後の息切れは、どちらの運動様式でも似たような結果であった。

<考察>
インターバルトレーニングは、進行したILD患者において、十分耐えられる方法である。

COVID-19のせん妄発生率(33%)

 Delirium and Adverse Outcomes in Hospitalized Patients with COVID-19

J Am Geriatr Soc (IF: 4.18; Q1). 2020 Nov;68(11):2440-2446.


<背景>
成人COVID-19患者における、急性精神変容と有害事象の関係についてあまり知られていない。
目的は、COVID-19で入院した患者のせん妄の発生率を調べ、有害事象との関係を調査すること。

<方法>
ブラジル、サンパウロの病院に入院した重症COVID-19患者を対象。
50歳以上の患者707人を対象に調査。
せん妄の発生は、the Chart-Based Delirium Identification Instrument (CHART-DEL)で評価。
ベースラインの情報は、電話で参加者や代理人へ確認。
アウトカムは、入院中死亡率、在院日数、ICU入室、呼吸器管理。
年齢、性別、既往歴、バイタルサイン、ラボデータ(リンパ球数、CRP、糸球体ろ過率GFR、D-ダイマー、アルブミン)を多変量解析にて調整した。

<結果>
234人(33%)にせん妄を認めた。入院時、86人(12%)でせん妄状態(delirious)であった。
273人(39%)が死亡。せん妄のある患者の入院中の死亡率は55%近くであった。
せん妄は、入院中の死亡と関連しており、調整されたオッズ比は1.75(95%CI:1.15-2.66)であった。
せん妄は、入院日数、ICU入室、呼吸器管理の増加と関連していた。

<考察>
せん妄は、50歳以上のCOVID-19患者の病院での死亡と関連していた。
パンデミック下での患者管理は困難であるが、COVID-19患者の重症度や予後を評価する際に、せん妄のモニタリングもルーチンで行うべきである。

2021/01/19

HOTがあると、身体活動に影響する

 Physical Activity in Patients with Chronic Obstructive Pulmonary Disease on Long-Term Oxygen Therapy: A Cross-Sectional Study

Int J Chron Obstruct Pulmon Dis (IF: 2.772; Q1). 2019 Dec 5;14:2815-2823. 


<背景>
いくつかの研究で、長期酸素療法(LTOT)を行っているCOPD患者の身体活動(PA)に関して検証されている。
目的は、LTOTを行っていて低酸素血症のあるCOPD患者のPAを評価すること。

<方法>
横断研究。比較項目は、肺機能、動脈血ガス、呼吸筋力、骨格筋力、6MWT、1日の消費エネルギー、歩数、健康関連QOL。
これを、LTOTありのCOPD(LTOT群) vs LTOT無し動作時低酸素のあるCOPD(HYPOX群) vs LTOT無し動作時低酸素のないCOPD(COPD群)で比較

<結果>
グループ間に、患者背景、身体測定値、骨格筋、呼吸筋力に違いはなかった。
LTOT群では、ほかの2群と比べて、重度の気流制限と肺過膨張、併存症の数が多く、重症度が高い、6MWDが短い、6MWT中の最低SPO2が低い、QOL低下していた。
LTOT群は、1日の消費エネルギー量が少なく、COPD群よりも3METs以上の活動時間が短く多くをじっとして過ごしていた。また、歩数が他の群よりも少なかった。
COPD群とHYPOX群で、PAのどのパラメーターも明らかな差はなかった。
LTOT群において、歩数は6MWDと強く相関し、気流閉塞、併存症、QOLと中等度の相関を示した。呼吸筋、骨格筋とは相関を示さなかった。
COPD群とHYPOX群において、歩数が6MWD、酸素化(P/F ratio)と強く相関していた。
どの群でもSpO2 と6MWDに相関はなかった。

<考察>
LTOTをしているCOPD患者は、低酸素血症の有無に関わらず、LTOTをしていない患者よりも身体活動量が少なかった。
動作時低酸素血症のある患者は、低酸素血症がない患者よりも身体活動は少なかった。

<LTOTの定義、機種>
24時間の酸素療法を3か月以上行っていること
ネーザルカニューラ、液体酸素を使用。患者が運搬するか(stroller)、カートで牽引(trolley)する方法?で運搬

<評価項目>
動的・静的肺容量:ボディプレチスモグラフィ
運動耐容能:6MWT
動作時低酸素の定義:テスト中に4%以上低下し、SpO2<90%となる、もしくは平均SpO2が88%未満。
LTOT群は、通常の酸素流量と運搬方法でテストに参加。
呼吸筋力:最大吸気筋MIP、呼気筋MEP
大腿四頭筋力、上腕二頭筋力:ハンドヘルドダイナモメーター
身体活動量:Sense wear arm band2を使用し、1回の週末を含めた3日間連続で測定。
QOL:EQ-5D、EQ-5D VAS


身体活動量:有意差があったのは、LTOTとの比較のみ。
動作時低酸素の有無(COPD vs HYPOX)では活動量に有意差なし

歩数との相関



<考察>
・歩数と6MWDに強い相関
⇒先行研究より、重症COPDにおいて、併存症、HRQOL、LTOTは、低身体活動レベルの独立した予測因子である。

・動作時低酸素血症の有無でPAに違いはなかった
⇒酸素を使いながら運動療法を行った先行研究で、プラセボと比較して、運動耐容能とQOLに大きな改善を認めなかった。運動刺激が酸素飽和度を圧倒していたかどうかは推測の域を出ない。。

・酸素療法は、低酸素血症のあるCOPD患者の運動耐容能を向上させるかもしれないが、身体活動レベルも改善させるかは明らかでない。

・肺機能とPAに弱い相関を認めた
⇒安静時肺機能からPAを推測することは困難

・身体活動に関する要因は、生活背景、習慣、環境、文化など様々な要因がある
⇒軽度PAを増やすよう介入に焦点を置き、安静時間を減らす

2021/01/17

COPDにおける5回起立の妥当性、MCID

The five-repetition sit-to-stand test as a functional outcome measure in COPD
 
Thorax 2013;68:1015–1020


<背景>
起立は、日常活動にて行われる動作である。5回起立テスト(5STS)は、腕組みした状態で椅子から5回素早く立つ時間を計測して下肢機能を評価できる。5STSは、地域在住高齢者での妥当性は報告されているが、COPD患者でのデータは示されていない。

<目的>
COPD患者における5STSの信頼性、妥当性、反応性を検討すること。

<方法>
5STSの再試験信頼性と検査者間信頼性を50人のCOPD患者で評価。
構成概念妥当性(construct validity)のために、5STS、ISWT、膝伸展筋力、SGRQ、複合的死亡率指標(ADO、iBODE)を評価。
反応性は、239人の外来呼吸リハ前後での5STSを評価し測定。
MCIDは、アンカーベースで推定。

<結果>
再試験信頼性と検査者間信頼性の級内相関係数は、0.97と0.99
5STSは、ISWT(r=-0.59)、膝伸展筋力(r=-0.38)、SGRQ(r=0.35)、ADO(r=0.42)、iBODE(r=0.46)と相関(すべてp<0.001)。
呼吸リハ前後で、5STS中央値は減少(改善)した(リハ前14.1秒vsリハ後12.4秒、p<0.001)
異なるアンカーを用いて推定したMCIDは1.7秒

<考察>
5STSは、COPD患者で信頼性、妥当性、反応性が確認され、推定されたMCIDは1.7秒であった。多くの医療現場での使用に適したアウトカム評価である。

・5STSの測定方法
背もたれがまっすぐのひじ掛けのない椅子を使用。椅子の高さは48㎝。
足底が床にフラットにつくように椅子に座り、胸の前で腕組み。
介助なしで最初の動作が行えない患者は、その時点で終了。
最初の起立を行えた患者は、できるだけ早く、腕を使わずに5回起立を行う。
時間は、「初め」の合図と共に開始し、5回目の起立が終わった時点(立位?)まで。

・再試験信頼性
同じ検査者で24-48時間開けて2回計測。

・反応性
8週間の外来リハプログラムを行った外来患者で計測。
週2回の監視下と1回の自宅での運動を実施。
運動処方は、推定最大酸素摂取量の80%から開始。サイクリングは、自覚症状に応じて開始。

・MCID
患者報告アウトカムと客観的アウトカムのMCIDをアンカーに使用。
患者報告アウトカム:患者の自覚改善度(Likert scale:1点(とても良くなった)から5点(とても悪くなった)のうち、良くなった、とても良くなったと答えた患者)
評価のMCID:ISWTのMCID(47.5m以上の増加)、SGRQ(4点以上の低下)のカットオフを達成した患者の5STSをROC曲線にて算出。

ベースライン特性と5STSとの相関

5STSができた患者とできなかった患者の比較
肺機能(%FEV1.0)は有意差なく、運動機能で有意差ありが多い

2021/01/10

COPDは骨粗鬆症や骨折のリスク因子

 COPD as an independent risk factor for osteoporosis and fractures

Osteoporos Int (IF: 3.864; Q1). 2020 Apr;31(4):687-697. 


<背景>
COPD患者は、骨粗鬆症や骨折のリスクが高い。しかし、両者のスクリーニングと予防のための予防的措置は、この患者集団ではしばしば無視されている。
このケースコントロールスタディでは、骨減少症、骨粗鬆症、骨折の有病率の評価と、骨折の可能性に関するリスク因子を検討すること。

<方法>
91人のCOPD群と81人の年齢、性別を補正した対照群で骨密度(BMD)、胸腰椎レントゲン、血清PTH、 25-ヒドロキシビタミンDを評価。
過去の骨折歴を臨床経過から収集。

<結果>
COPD群でのそう骨折有病率は57.1%(骨折のオッズは、対照群の4.7倍)
大腿骨頚部のTスコアが、骨折の最もすぐれた予測因子であった。
対照群と比較して、COPD群では、下部脊椎と大腿骨の骨密度が低く、25ヒドロキシビタミンDレベルが低かった。
骨粗鬆症のリスクは2.6倍。
男性において、脊椎骨折が最もCOPD群で多かった(25.9%vs6.5%)
骨折のオッズ比は対照群において、大腿骨頚部Tスコアが≦-2.7、COPD群において-0.6で上昇する。

<考察>
今回の結果は、COPDにおいて、骨粗鬆症と骨折のオッズが高いことに関するエビデンスを強化するものである。
COPD群で骨折していた患者は、想定以上に高いBMDであり、COPDが骨折リスクの独立したマーカーであることを示唆した。
これらの患者には、通常の骨折予防と骨粗鬆症のスクリーニングのための骨密度測定が必要である。

・T-score
若年齢の平均BMD値(基準値)を0として、標準偏差を1SDとして指標を規定した値
骨粗しょう症の診断基準(WHO)
正常:Tスコアが-1SD以上
骨減少症:Tスコアが-1 ~ -2.5SD
骨粗鬆症:T スコアが-2.5 以下

・骨折の評価方法
1)過去5年間で転倒などから骨折したことがあるかを聞き取り
2)脊椎のレントゲンから胸腰椎の脊椎骨折の有無を評価。Genantの基準によってgradeⅡかⅢに当てはまった場合に骨折有と判断

・対象(対照群:COPD群)
年齢 64.1歳:66.2歳
BMI 29.4:27.3

・単変量解析でのリスク因子(OR)
骨減少症 COPD(2.97)、過去3か月の吸入ステロイド使用(2.38)
骨粗鬆症 COPD(3.86)、過去1年間での経口ステロイド使用(8.75)、過去3か月の吸入ステロイド使用(4.95)
骨折 COPD(6.38)、クレアチニン(5.10)、過去3か月の吸入ステロイド使用(5.43)、喫煙(3.40)、骨密度測定結果で骨減少症あり(4.39)、骨密度測定結果で骨粗しょう症あり(5.25)

・骨折の評価結果
転倒による骨折経験は、対照群7.4%、COPD群36.3%
総骨折割合(レントゲンと自己申告)は、対照群17.2%、COPD群57.1%

・考察
COPDで骨密度が低い理由:COPDで骨疾患となる機序は未だ不明確。
骨量減少だけでなく、骨室不良や動的なパラメーターもリモデリングの低下、骨芽細胞の活動の減少、椎体骨折の発生増加を示唆している。
慢性呼吸器疾患において、慢性低酸素血症が骨量減少の原因の一つかもしれない。

2021/01/05

肺がん治療の一環としての運動療法

Exercise training as part of lung cancer therapy

Respirology (IF: 4.88; Q1). 2020 Nov;25 Suppl 2:80-87.


<要旨>
運動療法は、肺がん治療で重要な役割を担う。肺がんは、個人医療制度の負担増加と関連している。
現在のエビデンスは、運動は、安全で実用的であり、肺がん患者(特に非小細胞肺がん:NSCLC)のアウトカム改善が得られる。
運動は、早期肺がん、周術期、進行した肺がんなどの肺がん疾患と治療経過全体で有効である。
このレビューでは、早期肺がんおよび末期肺がん患者において、健康アウトカムに影響するか、運動の安全性、有効性について述べる。
また、現在のトピックとして、骨転移のある患者への運動や腫瘍の進行の抑制効果についても議論する。
最後に、7つの臨床疑問も含め、次の10年間に優先的に検証すべきことを述べる。


・過去10年間で運動療法の安全性や実用性などのエビデンスが蓄積された。肺がん患者の運動に関する論文は、38件、システマティックレビューは20件報告されており、特にNSCLCに関する報告が多い。

【手術適応肺がん患者の運動療法】

・早期(手術適応)肺がんで手術を行う際の外科的治療パスの管理において、運動は有効な手段である。
・術前や術後の短期間(入院中)、術後の長期管理も含まれる。

<術前>

・診断から手術までの間に行われる。
・多職種チームで手術適合を高めるために行われるが、運動のために手術が遅れるというエビデンスはない。
・目的は、運動耐容能を高めることと、術後の患者と医療システムへの負担を最小限にとどめること。
・術後の肺合併症の予防は、ICU入室や入院日数の増加と関連しており、重要な役割を担う。
・術前の運動期間に関するRCTでは、4週間未満で行っている。この期間は、頻回に行っている(1日2回、週5日)
・運動強度は、中等度の持久力運動と高強度のインターバルトレーニング

<術後:入院中>

・術後可能な限り早期離床を行い、運動療法を開始する
・目的は、早期自宅退院
・enhanced recovery after surgery(ERAS)のプロトコルを使用。
・肺がん術後のERASプロトコルでは、術後24時間以内に離床を行うことを推奨している。
・離床を阻害するものは、低血圧と不安定さ(不真面目?unsteadness)
・上肢のストレッチは、疼痛の軽減や肩関節機能の改善に役立てられる

<術後:外来>

・目的は、回復と社会復帰
・多くのRCTでは、6‐12週間行われた。頻度は、週2-3回。
・運動内容は、有酸素運動とレジスタンストレーニング。COPD患者のプログラムと似た内容を行う。

<切除不能肺がんに対するリハビリ>

・目的:症状改善、運動耐容能やHRQOL低下の予防、薬物治療の副作用緩和
・運動内容:中等度強度の有酸素運動とレジスタンストレーニング
・筋肉痛などの骨格筋イベントが報告されているが、運動による重大なイベントは報告されていない
・効果:運動耐容能向上、不安、感情機能の改善。しかし、周術期の運動よりも明確なエビデンスはない。
・Cochrane review2018で6件のRCTが報告されている。介入期間は6-12週、週に1-5回。
対照群と比べて、6MWD、HRQOL、息切れが改善していた。息切れに対する運動の影響はいまだ不明確。

<骨転移のある患者の運動>

・肺がん患者の診断時に20-30%、経過中に35-40%の患者が骨転移を診断される
・RCT(肺がん以外のがん患者)にて、前立腺がん由来の骨転移のある男性患者において、運動は安全で自己報告の身体機能の改善が報告され、著明な骨疼痛はなかった。
・運動プログラムは、細心の注意をはらって、最小限の圧迫とせん断負荷で行う。
・骨盤、腰椎、大腿骨近位部の転移のある患者では、荷重のない有酸素運動(エルゴメーターなど)を行う。胸骨、肋骨の転移患者では、歩行などの荷重運動を行う。
・レジスタンストレーニングは、上肢、体感、下肢の運動が推奨される。離床的に、骨メタは運動の全面禁忌ではないが、スペシャリストが行うことを推奨する。

<運動の腫瘍進行に対する抑制効果>

・腫瘍動物モデルの研究で、運動が腫瘍増殖を抑えることができたと報告された。
・これは腫瘍内へのNK細胞が腫瘍増殖抑制に関わっていると考えられた。
・肺がんモデルにおいて、滑車運動を行った群で、腫瘍の大きさが58%、重さが56%減少していた。
・この腫瘍縮小の機序は、エピネフリンによってNK細胞が輸送され、それに続くインターロイキン-6の再分配とNK細胞の活性化によるものではないかと考察された。
・これは予備研究であることは注意しなければならないが、運動が、腫瘍内に免疫細胞の浸潤をもたらし、プロアポトーシス蛋白の上方修正をもたらすかもしれない。
・今後、ヒトを対象にした検討が必要である。