2020/09/24

白血病患者への化学療法:身体面、認知面、感情面への影響

 Effect of Intensive Chemotherapy on Physical, Cognitive, and Emotional Health of Older Adults with Acute Myeloid Leukemia

J Am Geriatr Soc (IF: 4.18; Q1). 2016 Oct;64(10):1988-1995.


<目的>
急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia (AML))で化学療法を行っている高齢者の身体機能、認知機能、感情機能の短期間での変化を検証。

<方法>
前向き観察研究。単施設での研究。
60歳以上で新たにAMLと診断され、化学療法を行った患者(n=49、平均年齢70歳、56%男性)
高齢者機能評価(Geriatric assessment (GA) )を入院中に行い、退院後8週以内に再度評価。
評価項目は、活動制限の評価指標(ADL、IADL、活動の質問表)、SPPB、握力、修正MMSE、抑うつ評価(CESD)、苦痛評価(Distress  Thermometer)
GAの変化は、対応のあるt検定で評価。分散モデルで、GA変数と機能的な変化の関係を評価。

<結果>
化学療法後、IADLの自立度が悪化(1.4vs2.1)、SPPBスコアも同様(7.5vs5.9)。握力も低下(男性:38.9 ± 7.7 vs 34.2 ± 10.3 kg, P < .001、女性:24.5 ± 4.8 vs 21.8 ± 4.7 kg, P = .007)。
認知機能は変化なし(84.7 vs 85.1, P = .72)
抑うつ症状は変化なし(14.0 vs. 11.3, P = .11) 
苦痛(distress)症状は低下(5.0 vs 3.2, P < .001)
ベースラインとフォロー後に抑うつ症状があると、SPPBスコアが大きく低下していた。

<考察>
化学療法の生存者は、身体機能が有意に低下していた。
これらのデータは、化学療法中・後の身体機能維持の介入が身体機能低下を予防することと関連するかもしれないため、重要であることを支持する。

・ベースラインとフォロー後で、身体機能は低下傾向
各項目の障害されている割合
多くの項目で、フォロー後に悪化している割合が多い
ex)SPPB<9点を機能障害と定義している

抑うつ症状がある、もしくは出現すると
フォロー後にSPPBスコアが悪化。


・治療中に身体的デコンディショニングのリスクに抑うつ症状が影響しているかもしれない
・短期間の身体機能低下とQOLの悪化は、介助量増大、転倒、がん治療の選択肢の制限など二次的な影響が生じる可能性がある。
・がんと診断されたり、入院後に身体機能の回復がわずかであると死亡率が高いという報告もある( J Am Geriatr Soc. 2008; 56:2171–2179. J Cancer Surviv. 2013; 7:20–31.)

2020/09/19

COPD増悪入院患者における筋力低下の影響

 Muscle loss contributes to higher morbidity and mortality in COPD: An analysis of national trends

Respirology (2020)


<背景>
COPDは、世界の死因第3位で、アメリカでは4位である。COPDで入院した患者は、死亡率や医療費が高騰する。
骨格筋低下はCOPD患者でよくみられる。しかし、筋力低下によるさらなるアウトカムへの影響は、体系的に評価されていない。
COPD増悪で入院した患者は、そうでない患者に比べて、筋力低下による二次診断(ICD-9でカヘキシアを含む筋力低下に関連したコード)が、死亡率や医療費が高くなっていると仮定し、検証した。

<方法>
2011年にアメリカで入院した患者のデータベースを使用。
174808件のCOPD増悪入院患者のデータを解析し、筋力低下の入院中の死亡率、入院日数、医療費への影響を検証。

<結果>
12977人(7.4%)に筋力低下による二次診断がつけられていた。
筋力低下の診断は、
入院中の高い死亡率(14.6% vs 5.7%, P < 0.001)、
長い入院日数(13.3 + 17.1 vs 5.7 + 7.6, P < 0.001)、
高い医療費($13 947 vs $6610, P < 0.001)
と関連していた。

多変量回帰分析にて、筋力低下がない場合と比べて、
筋力低下のある場合の死亡率は、111%上昇
入院日数は、68.4%増加
医療費は83.7%増加
していた。

<考察>
入院中の死亡率、入院日数、医療費は、筋力低下のあるCOPD患者でより高かった。

・アメリカの入院患者の大規模data baseをを使用し、2011年にCOPD増悪で入院した患者データを選出
・筋力低下は、ICD-9コードで定義



2020/09/16

急性期病院入院後24時間の高齢者の身体活動量

Predictors of physical activity in older adults early in an emergency hospital admission: a prospective cohort study

BMC Geriatr. 2020; 20: 177.


<背景>
活動量の低下は、高齢入院患者において、機能低下や急性サルコペニアを引き起こすかもしれない。特に急性期病院での、入院中の活動性低下についてはあまり理解されていない。
今回、高齢者が入院して最初の48時間における24時間の院内での活動の予測因子を検討した。

<方法>
75歳以上の患者を入院24時間以内にリクルート。
ベースライン評価として、活動量、認知機能、フレイル、転倒効力感、併存症、急性疾患の重症度、膝伸展筋力、握力。活動量計を入院後7日間(もしくは退院まで)装着。
入院中の身体活動は、上体を起こしている時間と定義(立位もしくは歩行)。
身体活動の予測因子の検討のために、最初の24時間の記録に限定。
ベースライン評価は最良値を採用。最適化モデル(optimal model)で最大5つの変数を算出。

<結果>
70人の患者が対象。しかし、8人は最初の24時間の活動量計の記録がなかったため除外。
患者は、24時間のうち0.5時間を立位もしくは歩行していた。
最適化モデルでは、活動機能(de Morton Mobility Index)、疾患重症度、早期警戒スコア(National Early Warning Score:NEWS)、血清CRP値。

<考察>
急性期病院に入院した患者はの身体活動は非常に低かった。
疾患重症度と身体活動の関係は、急性疾患の症状によって説明され、活動制限となっているかもしれない。
早期モビライゼーションのために学際的なアプローチが求められる。

2020/09/09

BODE indexにSPPBを使用し、死亡リスクを予測

 Short physical performance battery as a practical tool to assess mortality risk in chronic obstructive pulmonary disease 

Age and Ageing 2020; 00: 1–7

<背景>
COPDは高齢者の死亡原因の多くを占めている。BODE indexはCOPDの死亡リスクを予測する最も良い指標であるが、6MWTを含んでおり、臨床的にめったに行わない。そのため、BODE indexは6MWTが置き換わればより良い指標となるかもしれない。

<目的>
修正BODE indexで、6MWTがSPPBなどほかの評価と置き換わることが出来るかを検討すること。

<方法>
630人のCOPD患者。
ベースライン評価は、肺機能、6MWT、SPPB
予測モデルは、多変量Cox回帰モデルを使用し、10倍のクロスバリデーションとレプリケーションを用いたC-インデックスとキャリブレーションプロットで評価(?)。

<結果>
2年間の追跡期間にて、60人(10%)が死亡
6MWTを使ったBODEとSPPBを使ったBODEで死亡を予測する明確な違いは無かった。

<考察>
SPPB(4m歩行速度、バランスの項目)を使用したBODE indexは、6MWTを使用したBODE indexで予測する死亡リスクの予測精度を失うことなく置き換わることが出来るかもしれない。

Table S2. Assignment of points for BODE and SPPB.

Variable

0 points

1 point

2 points

3 points

BODE

 

 

 

 

BMI (kg/m2)

> 21

≤ 21

 

 

FEV1 (% predicted)

≥ 65

50-64

36-49

≤ 35

Dyspnoea (MRC scale)

0-1

2

3

4

Six-minute walk test distance (m)

≥ 350

250-349

150-249

≤ 149

Alternative musculoskeletal measures

 

 

 

 

SPPB (points)

10-12

7-9

4-6

< 4

Four-metre gait speed (points)

4

3

1-2

0

Balance (points)

4

3

1-2

0

Chair stand (points)

4

3

1-2

0






2020/09/07

ILDにおける4m歩行速度の妥当性

The validity and reliability of four-meter gait speed test for stable interstitial lung disease patients: the prospective study

J Thorac Dis (IF: 2.046; Q2). 2020 Apr;12(4):1296-1304. 


<背景>
4m歩行速度は、高齢者やCOPD患者において簡単な機能評価である。しかし、間質性肺疾患患者でのデータは限られている。
今回、4m歩行速度と6MWTの関係を検討し、両者に身体的な因子があるかを検討した。

<方法>
4m歩行速度と6MWTを51人のILD患者で実施。
その他の評価はHR-QOL、筋力、骨格筋量、身体活動量

<結果>
35人が男性患者(68.6%)。34人がIPF(66.7%)
4m歩行速度と6MWDに高い相関(r=0.57; P<0.001)
多変量解析にて、4m歩行速度と6MWDと関連していたのは、mMRC。
さらに、6MWDは年齢、%DLCOと関係していた。

<考察>
4m歩行速度は、簡単にILD患者の身体機能を反映できる試験である。

・神戸市立医療センター中央市民病院で実施された前向き研究
・外来で通院している慢性期ILD患者51人が対象
・4m歩行速度と6MWTは同じ日に実施
・必要に応じて酸素吸入をしながら測定

・4m歩行速度の測定方法
加速、減速に1mずつ加えた6mの直線コースで測定。2回測定し、最速値を採用

・6MWTの測定方法
円周コースを6分間歩行。歩行前後のSPO2、mBorg scaleで息切れを聴取

・HRQOL:SGRQ、CAT、mMRC息切れスコアを評価。

・筋力:ハンドヘルドダイナモメーター(μ-tasF-1)で、大腿四頭筋力を測定。体重比で記録

・身体活動量:ライフコーダで1週間の歩数を記録。最初と最後の日を除いて、平均を算出。






 r=0.57; P<0.0001.


2020/09/02

重症ARDSの腹臥位療法の生存効果 NEJM2013

 Prone Positioning in Severe Acute Respiratory Distress Syndrome

N Engl J Med (IF: 74.699; Q1). 2013 Jun 6;368(23):2159-68.



<背景>
急性呼吸促迫症候群(ARDS)患者の予防的研究では、人工呼吸管理中の腹臥位の効果は示されなかった。
今回、重症ARDS患者で腹臥位療法の早期実施の効果を検討した。

<方法>
多施設、前向き、ランダム化比較試験。466人の重症ARDS患者で、16時間の腹臥位もしくは左背臥位を実施。
重症ARDSの基準はP/F ratio≦150mmHg(少なくともFiO2 0.6)、PEEP5cmH2O以上、1回換気量6ml/kg。
プライマリーアウトカムは、28日以内の死亡率。

<結果>
237人が腹臥位グループ、229人が背臥位グループ。
28日後の死亡率は、腹臥位で16.0%、背臥位で32.8%
腹臥位での死亡のハザード比(Hazard Ratio)は0.39。
90日後の死亡率は、腹臥位で23.6%、背臥位で41.0%、ハザード比は0.44
合併症の発生は、両グループで差はなく、背臥位グループで心停止の割合が多かった。

<考察>
重症ARDS患者において、長時間の腹臥位を早期に行うことは、28日後、90日後の死亡率を減少させた。

・対象患者
挿管されて36時間以内
重症ARDSは、 PaO2:FiO2 ratio of <150 mmHg, with an FiO2 of ≥0.6, a PEEP of ≥5 cmH2O 、1回換気量 6 ml/kg
ICU入室後12-24時間後の状態で基準を満たすかを判断

・腹臥位
標準的なICUベッドを使用し、完全腹臥位を最低16時間実施。
呼吸器設定は、VCモード、目標1回換気量は6ml/kg
・腹臥位の中止基準
酸素化の改善(P/Fratio>150mmHg、PEEP≦10cmH2O、FiO2≦0.6)
P/Fratioの20%以上の低下
腹臥位中の合併症の発生:予定外抜管、主気管挿管、末梢気管チューブ閉塞、喀血、SpO2<85%もしくはPaO2<55mmHgがFiO2 0.1で5分以上持続、心停止、HR≦30bpmが1分以上継続、収縮期血圧≦60mmHgが5分以上、その他専門家が危険と判断した場合。

腹臥位療法後は背臥位へ。腹臥位は毎日実施。

・ウィーニングの基準は両グループとも同じ。毎朝、ウィーニングを検討。