2022/09/14

COPD患者の低酸素血症について:原因、影響、疾患の進行 Int j COPD2011

Hypoxemia in patients with COPD: cause, effects, and disease progression

Int J Chron Obstruct Pulmon Dis (IF: 2.77; Q1). 2011;6:199-208.


COPDは、世界的な死亡や機能障害の主な原因である。肺胞低酸素とその結果として生じる低酸素血症は疾患重症度が増すにつれて、罹患率も上昇する。
換気血流ミスマッチが、気流制限と気腫化の結果として生じ、この低酸素の重要な要素である。これは睡眠や運動によって悪化することがあるかもしれない。
未治療の慢性低酸素血症は、肺高血圧症、二次的な多血症、全身炎症、骨格筋異常など、COPDの進行と関連している。
これらの要素の併発がQOL低下、運動耐容能低下、心血管合併症のリスク増加、死亡リスク増加につながる。
睡眠時の呼吸障害の併発は、COPD患者のうち少数ではあるが、これらの合併症リスクを高めると考えられる。
長期間酸素療法は、肺血行動態の改善、赤血球増加の抑制、重度の低酸素血症を伴う呼吸不全患者の生存率向上を示す。
しかし、動作時の低酸素血症、睡眠時のみの低酸素、軽度から中等度の安静時低酸素のある患者に対しての最適な治療に関しては明らかになっていない。

【COPDにおける低酸素血症の病態生理】
・典型的なCOPDの低酸素血症は、気流制限と気腫化による肺胞毛細血管床減少による換気血流比不均等(V/Q mismatch)の結果生じている。
・気腫化タイプのCOPDでは、換気の少ない肺のユニットが増え(V/Q比の増加)、生理学的な死腔量が増加する。
・気道病変タイプでは、V/Q比が小さいことが多く、不均質な肺胞低換気、低換気領域への血流、その結果生じる生理学的シャントが生じる。
・気腫化や細気管支病変によるV/Qミスマッチは軽症COPDで観測されるが、疾患進行に伴い出現頻度は増加する。
・COPD増悪では、V/Q比の不均等が増加する。また、静脈血酸素飽和度の低下により観測される組織での酸素消費の増加が増悪中の低酸素を助長するが、これは、心拍出量増加によって相対的に相殺される。

【動作時低酸素血症とCOPD】
・運動は、換気の分布が均等になることによるV/Qミスマッチの改善により、軽症COPDにおいてはガス交換能を改善させる。
・しかし、重症になると、V/Qミスマッチと骨格筋の酸素消費量が増加し、動的肺過膨張も加わり、結果として動作時低酸素を生じる。
・動作時低酸素は死亡リスクの増加と関連するが、酸素療法の役割(生存率を改善するか)については明らかでない。
・酸素により、短期間の症状緩和や運動パフォーマンスを改善するとの報告もいくつかあるが、長期のデータは不足している。
・動作時の酸素療法が生存率を延長するかについてのエビデンスは少ない。
・酸素を使用することは、無害ではなく逆効果であることもある(後述)

【低酸素性肺高血圧】
・低酸素はCOPD患者の肺高血圧症の進行に影響する重要な要因である
・罹患率は不明だが、中等症から重症COPDにてよく観測される
・120人の重症肺気腫患者を対象にした報告で、右心カテーテルで測定した肺動脈圧が90.8%の患者で基準値以上であった。
・215人の肺移植待機中のCOPD患者にて、肺高血圧が50.2%の症例で認められた。
・別の報告では、998人中27人でのみ肺動脈圧が40mmHg以上であったとしている。
・Thabutらは、中等症から重症COPDで低酸素があり、重度の肺高血圧のある患者の非典型的な患者の特徴を明記→睡眠時無呼吸、肥満、慢性血栓性疾患などの並存症がある
・COPD関連の肺高血圧は緩徐に進行するが、増悪時は一時的に上昇する
・右心不全、四肢浮腫など肺性心の特徴的な症状は稀なケース

【解剖的な肺高血圧進行の要素】
・肺血管床の減少、血栓塞栓症、肺血管収縮とリモデリング
・肺高血圧のあるCOPDの肺循環の特徴=血管内膜の肥厚や細動脈の筋性動脈化:muscularization of arteriole(動脈硬化による正常なら筋層はほとんど存在しない細動脈(20~30μm)にまで筋層が出現する)による血管腔狭小化がある
・低酸素性肺血管抵抗の上昇は、低酸素の重症度や機関に付随して出現する
・分子レベルでの原因は不明
・Rhoキナーゼの活動が、低酸素により活性化され、血管の緊張を高めているかもしれない
・Rhoキナーゼ(Rho kinase):血管収縮に必要な酵素
・低酸素が血管内皮の機能障害(血管収縮と拡張のバランスが崩れる)を引き起こしている可能性
・血管内皮由来の血管拡張メディエーターに一酸化窒素がある
・低酸素は血管内皮性の血管弛緩効果が重症COPDでは障害されており、NOが全身にいきわたらないことを示唆する。
・逆に、低酸素によってエンドセリン1(血管収縮作用を持つ血管内皮由来のタンパク)のような血管収縮メディエーターの産生が増大されることによって、血圧上昇を招いている。

【長期酸素療法(LTOT)】
・肺高血圧のあるCOPDの治療として選択される。
・夜間の持続酸素投与によって、血管抵抗や血圧が減少することが報告された。
・LTOTは肺血行動態を安定させる
・COPD患者において、肺高血圧を改善させたり安定させることがある。しかし、LTOTを行っている患者の有害事象の予測がいまだ存在する。

2022/09/06

COPD 運動時酸素吸入にて息切れ症状は改善、生存率には影響しない

Exercise response to oxygen supplementation is not associated with survival in hypoxemic patients with obstructive lung disease

Int J Chron Obstruct Pulmon Dis (IF: 2.77; Q1). 2018 May 17;13:1607-1612.


【背景】
低酸素血症は、重症肺疾患やアウトカムの悪化と関連している。動作時低酸素血症のあるCOPD患者において、酸素療法は運動耐容能を向上させる。
離床的に、酸素療法によるこの運動の反応は不明である。

【方法】
動作時酸素の評価のために6MWTを行い、室内気で低酸素があり、酸素吸入をテストに追加したCOPD患者。
酸素療法が有効と判断した基準は、酸素吸入にて26m以上の歩行距離延長が得られた患者。
2006年から2016年に追跡。生存率は2017年時点で判断。
酸素に反応した患者と反応しなかった患者で生存率を比較した。

【結果】
174人の患者が参加
年齢中央値70歳。77人(44.3%)が酸素に反応した。
酸素吸入によって、息切れのborgは1.4ポイント改善(p<.0005)。
生存中央値は66カ月で、84人(48.2%)が死亡。
カプランマイヤーにおいて、酸素反応グループと非反応グループに生存率の違いはなかった(p=0.571)。
Cox回帰分析で、より高い死亡リスクと関連していたのは、室内気で6MWTでの低酸素がより大きい、歩行距離が短い、男性、低Hb、低BMIであった。

【考察】
酸素療法による急性運動反応はCOPD患者の長期予後に関連しなかった。
これは、動作時の酸素療法は対症的な目的にのみの使用を支持した。

2022/08/31

6MWT中の低酸素は増悪や死亡率の予測因子

 Oxygen desaturation in 6-min walk test is a risk factor for adverse outcomes in COPD

Eur Respir J (IF: 16.67; Q1). 2016 Jul;48(1):82-91.


【背景】
6MWTはCOPDの身体機能を評価する運動テストであり、低酸素血症に関する情報を提供する。COPDの重要なアウトカム(死亡率、増悪頻度、肺機能減少、除脂肪体重減少)のリスク因子として、6MWT中の低酸素について検討した。

【方法】
Bergenコホート研究に参加している433人のCOPD患者を2006-2009年の3年間追跡。
患者特性として、肺機能、生体電気インピーダンス測定、Charlson併存症スコア、増悪歴、喫煙、動脈血ガスを使用。

【結果】
370人がベースラインの6MWTを実施。
6MWT中に低酸素を経験していた患者の死亡リスクは2倍(HR2.4、95% CI 1.2-5.1)
その後の増悪の経験リスクは50%増加(発生危険率1.6、95% CI 1.1-2.2)
FVCとFEV1.0の年間低下率は2倍(FVC 3.2%vs1.7%、FEV1.0 1.7%vs0.9%)
除脂肪体重の減少率は増加(0.18kg/m2vs0.03kg/m2)

【考察】
低酸素血症のあるCOPD患者は、低酸素血症の無いCOPDよりも予後が悪く、多次元的な重要な疾患アウトカムである。

・433人のCOPDコホート
・6MWT中は酸素無し(4人はLTOTをしていたがテスト中は酸素吸入せず)
・SpO2と脈拍を6MWT前と終了直後に測定。
・予測最大心拍数(220-年齢)に対しての運動後脈拍の割合を努力指標(idnex of effort)として計算
・低酸素血症の定義は、the Royal College of Physicians' guidelinesの定義に従い、テスト前後で4%以上の低下、テスト後SpO2<90%とした。
・カヘキシアの定義はFFMI<14kg/m-2(女性)、<17kg/m-2(男性)
肥満は、FMI >13.5 kg·m−2(女性)、 >9.3  kg·m−2 (男性)

2022/08/23

IPF患者の運動中にハイフローネーザルカニューラを使用 SpO2とStO2は必ずしも一致しない

Impact of high-flow oxygen therapy during exercise in idiopathic pulmonary fibrosis: a pilot crossover clinical trial

BMC Pulm Med (IF: 3.32; Q2). 2021 Nov 8;21(1):355.


【背景】
標準的な酸素療法(SOT)はIPF患者の運動耐容能を向上させる。ハイフローネーザルカニューラ(HFNC)はその他の呼吸器疾患の酸素化を改善させるが、IPFの運動能力に影響するかは検討されていない。
HFNCが、SOTと比べてIPF患者の運動耐容能を改善させると仮説した。

【方法】
前向き、クロスオーバー、パイロットランダム化研究。
6MWTにてSPO2≦85%の動作時低酸素血症のあるIPF患者を対象に、定常負荷での亜最大心肺運動負荷試験(CPET)を行い、両方の酸素供給方法を比較した。
プライマリーアウトカム:持続運動時間(Tlim)
セカンダリーアウトカム:筋酸素飽和度(StO2)、呼吸(息切れ)と下肢の症状

【結果】
対象IPF患者:平均71.7歳、男性が90%。
FVC:58±11%、DLCO:31±13%
CPETのTlimはハイフローを使用した方が長かった(494vs381、p=.01)
ハイフローは、吸気予備量(IC)も増加した(19.4vs7.1、p=.04)
同様の傾向がStO2でも得られた。
ふたつのデバイスで、呼吸困難や下肢疲労の自覚症状に違いはなかった。

【考察】
動作時低酸素のあるIPF患者において、ハイフローが運動耐容能を向上させるという最初のエビデンスを示した。
これは、換気メカニクスや筋の酸素化の変化によって説明できる。
さらに大規模な研究で、IPF患者のハイフローの効果について確証を得ることが必要であり、リハビリプログラムに取り入れることができる可能性がある。

・適格基準:室内気(RA)で実施した6MWTにてSPO2≦85%
・除外基準:IPF以外の線維性ILD、COPDや喘息合併、中等度から重度の肺高血圧、整形疾患や認知機能障害でCPETが行えない

・評価方法:最大運動負荷(WRmax)を計測し、SpO2>85%を保てるFiO2(ベンチュリーマスク)を決定。
・亜最大運動負荷試験(75%WRmax)で2回(ハイフローと通常酸素)CPETを実施
・中止基準:胸部痛、心電図異常、SpO2<80%
・CPET:10wattの負荷、50-60rpmを維持、SpO2≧85%を保てるようFiO2を付加
・通常酸素:ベンチュリーシステムで投与
・ハイフローの設定:フローは40-60L/min、FiO2は同様

・筋酸素飽和度(StO2):筋肉の血中Hb濃度を測定できるNIRS(製品ホームページ)を使用。
安静時、フリーペダル、CPET中、リカバリータイムのデータを収集。亜最大負荷時中の平均StO2、終了時(回転を維持できなくなった時点)での持続時間を収集。
さらに、StO2の低下幅(運動時の平均StO2ー安静時StO2)、運動負荷していない時期の回復(リカバリー時のStO2平均値ー亜最大運動時の平均値)を算出。

<結果>
平均6MWD436m、歩行中のSpO2は平均81%、軽度肺高血圧(心エコーで平均肺動脈圧>35mmHg)が4例。
CPET中のSPO2≧85%に要したFIO2は0.33±0.07
Tlim(運動持続時間)はハイフローの方が30%長かった
2つの酸素システムによるTlimの違いは6MWTの平均SpO2と負の相関あり(r=-0.705、p=0.02)
StO2はハイフローの方がより高く維持できている傾向にあった。
ハイフローの方が、ICの高い改善が得られた。
二つの酸素システムで、症状に違いはなかった。

<考察>
ハイフローの方がTlimが良好であった理由 1)ウォッシュアウト効果、2)PEEP効果による肺胞虚脱予防の効果
SpO2とStO2の差は、Tlimの差と相関傾向にあった
運動中のSpO2は酸素システムで大きな違いはなかったが、StO2はハイフローの方が良好な傾向を示した
→筋活動により酸素運搬能の変化によって生じた可能性。
ILDでは、筋の機能異常が報告されている。ILDにおける筋弱化のメカニズムは不明だが、デコンディショニングが重要な役割を担っているかもしれない。

(CPET後のSPO2は同等だが、StO2はハイフローの方が高い傾向(43.4%vs47.2%)運動持続時間はハイフローの方が長い(381秒vs494秒)ので、筋活動時間が長いほうがStO2が良好であったことが推測される。)

2022/08/01

動作時低酸素のみのILD患者に酸素投与はHRQOL改善と関連

Effect of ambulatory oxygen on quality of life for patients with fibrotic lung disease (AmbOx): a prospective, open-label, mixed-method, crossover randomised controlled trial

Lancet Respir Med (IF: 30.7; Q1). 2018 Oct;6(10):759-770.


【背景】
線維性肺疾患において、動作時息切れは健康関連QOLと強く関連している。息切れは、しばしば酸素不飽和と関連しているが、動作時酸素の使用についてのデータは少ない。
目的は、動作時低酸素のある間質性肺疾患患者のHRQOLと動作時酸素の影響について検討すること。

【方法】
AmbOxは前向き、オープンラベル、複合法、クロスオーバー、ランダム化比較試験。
イギリスのILDの3施設にて実施。
適格患者:18歳以上、線維性肺疾患、安静時低酸素は無く6MWTにて88%以下へ低下がある、過去2週間で呼吸器症状が安定している
参加者は1:1でランダムに酸素療法と酸素療法なしに振り分け2週間、他にクロスオーバーし、2週間実施。
ITT解析を使用
プライマリーアウトカム:the King's Brief Interstitial Lung Disease questionnaire (K-BILD)の酸素使用と酸素不使用で2週間後の変化

【結果】
2014年から2016年に84人の患者がランダム化し、41人がまず酸素療法、43人が酸素無しに振り分け。
76人がトライアルを完了させた。
酸素無しと比べて、動作時酸素療法はK-BILDのtotalスコア、息切れ、活動の著明な改善と関連。
しかし、心理的ドメインでは影響なかった。
最も共通した有害事象は上気道感染であった。
最も重大な有害事象5件のうち、2件の死亡があったが、治療との関連は考慮されなかった。

【考察】
動作時酸素は、動作時低酸素のあるILD患者のHRQOL改善と関連しており、治療オプションとしてこれらの患者群には有効であろう。
今後の検討が必要である。