Asian Pac J Cancer Prev (IF: 1.58; Q2). 2013;14(1):47-51.
【背景】
食道癌術後の合併症は、患者に多くの不快感を与え、入院日数を長引かせている。身体活動の減少は、身体機能と密接な関係があるため、術後合併症の独立したリスク因子の一つである。
この研究の目的は、食道癌手術を行う患者の身体活動が、術後合併症のリスクを減少させるかについて検討した。
【方法】
51人の患者。新たに食道癌と診断され、2009年から2011年の間に食道がん切除術を行った患者。
患者背景、病理診断、治療情報を記録し、身体機能を測定した。
過去7日間の身体活動質問表(IPAQ)で術前の身体活動を評価。
多変量ロジスティクス回帰分析、ステップワイズ法を用いて、術前身体活動が、術後合併症のリスクと関連しているかについて解析した。
【結果】
男性、3フィールドのリンパ節郭清、低レベルの身体活動、術前併存症が、術後合併症と独立して関連していた。
【考察】
低身体活動、術前併存症、3フィールドのリンパ節郭清が、食道癌切除術後の合併症のリスク因子であった。
今後の研究が必要であるが、高い身体活動を維持することで、術後合併症のリスクを軽減できるかもしれない。
・京都大学での研究
・2009-2011年に新たに食道癌と診断され、術前にneoadjuvant化学療法を行うか、手術のみを行うことを予定された患者が対象
・介助なしで歩けない患者は除外
・術後は、全患者ICUに入室
・評価項目:患者背景、臨床病理的情報、治療方法、
・手術方法は、1)胸腔鏡および 腹腔鏡下食道切除術、2)胸腔鏡および開腹食道切除術、3)開胸および腹腔鏡下食道切除術
・その他の手術情報として、リンパ節郭清の範囲(2フィールド以下or3フィールド)、失血量、手術時間、
・術前合併症として5つを記録:高尿酸血症、心疾患、糖尿病、高血圧、COPD
・身体機能評価:膝伸展筋力、6MWD、肺機能
・身体活動量評価:IPAQshort versionを使用。
週あたりのMETsを算出し、9METs未満と9METs以上に分類。
・術後14日以内の術後合併症を調査。
結果
・55人の患者がリクルートされ、51人が解析対象
・平均年齢65歳、男性44人。術後合併症ありは20人
・合併症の有無で分けると、術前6MWD、筋力は、合併症有無で有意差なし。身体活動で有意差あり(合併症ありのほうが、9METs以下が多い)
・術後合併症を予測する多変量解析:低身体活動は28.3倍、男性18.6倍、3フィールドのリンパ郭清9.6倍、術前合併症5.9倍
考察
・先行研究で高齢、腫瘍部位、手術時間、3フィールドリンパ郭清、併存症が術後合併症のリスク因子であった→今回のリンパ郭清は独立したリスク因子であり、反回神経麻痺の発生率位が高いことが影響しているかもしれない。今回の合併症で最も多かった(25%)
・身体活動が合併症に影響していた原因として、高血圧や糖尿病など生活習慣に関連した疾患の影響があるのではないか。
身体活動レベルと全死亡原因は直線的に関連しており、これは生活習慣に関連した疾患のためである。
今回、吻合部のリークが16%で発生した。吻合部のリークは、胃の虚血の要因として重要である。
1件の先行研究で、高血圧と糖尿病の既往が、吻合部のリークの独立した予測因子であった。これは組織への微小な血流を減少させることが要因と考えられる。
身体活動レベルが高い患者においては、より良い循環が保たれるため、リークの発生が減少しているのかもしれない。
→術前1週間の身体活動を高めておくことが術後合併症の予防になるかもしれない。
研究限界
・小さいサンプルサイズ、単施設研究
・前向き観察研究である。身体活動の直接の効果については評価していない