2019/07/06

運動時低酸素のある患者に対する酸素療法の検討

Supplemental oxygen during exercise training in COPD: full of hot air?

Eur Respir J 2019 May 30;53(5). pii: 1900837.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31147425

慢性呼吸器疾患患者で重度の低酸素血症がある患者に対して、生存率の観点から長期間酸素療法が広く用いられている。
これらの根拠となった研究からは、低酸素血症のある患者に対して酸素療法を行うことは有益であり、酸素を処方することにつながっている。
しかし、RCTでこれらを支持する研究は行われていない。


運動誘発性低酸素(EID)のある患者に対して、酸素を投与すると、呼吸数が減少し、動的肺過膨張が減少するとされている。また、酸素運搬能の改善、運動関連の代謝性アシドーシスの減少も得られる。

60年以上前に、運動時低酸素血症がある患者に酸素を投与すると、運動時間が延長したと報告されている。このことから、酸素投与によってより強度の高い運動を行うことができると論理的な仮説が導かれた。
しかし、この仮説を検証すると、決定的な結論には至っていない。


Alisonらは二重盲検無作為化試験にて運動時低酸素血症がある患者(6MWTにてSpO2≦90%)へ運動時に酸素療法を行うことが圧縮空気と比較して、運動耐容能やQOLなどを向上させるか検討した。

週3回を8週間行うプログラム。運動強度は30分の有酸素運動(トレッドミル20分、エルゴ10分)。強度は、息切れのmBorg3-4を目標に調整し、漸増した。

結果は、両群(酸素vs圧縮空気)とも運動耐容能やQOLが改善し、酸素付加による効果は認めなかった。

トレーニングの内容を見ると、酸素投与群において,SpO2や息切れの自覚症状が保たれていたにも関わらず、1セッション当たりの負荷を増やせていなかった。
筆者は、より大きな生理学的な刺激を加えると、急性期の酸素導入による小さな生理学的な効果を超えると示唆している。
⇒今回の報告の内容を見ると、運動量が十分でなかった可能性がある。運動量を高く保てれば、効果が得られるが、運動制限の理由によって結果は異なると思われる。


現在の報告から、EIDのある患者の運動療法時の酸素使用による簡便なアルゴリズムを示す
運動時低酸素(SpO2:80-90%)があり、酸素付加によるフィールドテストにて90%以上を保てた場合⇒歩行距離がMCIDを超えて改善していたら、酸素付加での運動を考慮。
距離が変わらなければ、酸素付加せず運動(現状維持が目標?)。
SpO2<80%であれば酸素付加にて運動療法を行う。


依然として、酸素療法の役割や、急性効果における効果は不確かなままである。


今後、EIDのある患者が、酸素療法にて運動療法がより効果的であるかについては検討するべきである。
低酸素が運動制限となっていない多くの患者(特に、医療環境の無い地域在住患者に呼吸リハを行う際)にとって、今回の研究は重要な指摘かもしれない。
酸素療法のみを行い症状が軽減していないCOPD患者にとって、重要な影響を及ぼす結果となる可能性を秘めている。