2022/02/02

肺がん術前身体活動:術後合併症、活動強度と関連

Preoperative Physical Inactivity Affects the Postoperative Course of Surgical Patients with Lung Cancer

Phys Ther Res . 2021 Oct 13;24(3):256-263.


【目的】
術前パフォーマンスステータス(PS)は胸部外科において重要な要因であるが、術前身体活動(PA)が術後経過に影響するかについては明らかになっていない。
本研究では、肺がん周術期の術前PAと術後合併症や臨床アウトカムとの関連について検討した。

【方法】
前向き観察研究
単施設における肺がん手術を行った患者が対象
身体活動測定:術前5日間と術後退院まで計測
歩数と中等度身体活動(3METs以上)時間を加速度計にて計測
検定は、
PAと術前肺機能、術前身体機能の相関
術後合併症とPAの関係
多変量解析を、術前PAを従属変数として実施

【結果】
42人の患者が対象
単変量解析では、術前PAと術前肺機能に関連はなかった。
術前PAと中等度強度の活動時間、入院中のPA、術前6MWDに正の相関を認めた(r > 0.5, p < 0.01).
術後合併症を認めた9人の患者は、術前PAが有意に低く、合併症の無い患者と比べて歩数が少なかった(p=.04)。
多変量回帰分析にて、術前PAは、中等度強度の活動時間、最大歩行速度、術後合併症と著明に関連していた。

【考察】
術前PAの測定は、肺がん術後患者の経過を予測するのに有用である。

・方法
2016年-2017年に日本の単施設(公立昭和病院)にて実施
適格基準:肺がん(非小細胞肺がん)の診断、18歳以上、予定肺切除
除外基準:運動に影響する併存症(神経疾患、循環器疾患等)、参加拒否
術後合併症:人工呼吸48時間以上、無気肺、細菌性肺炎、不整脈、せん妄、5日以上胸腔ドレーン挿入が必要なエアリーク。(Clavien-Dindo grade ≤ IVa)

・身体機能評価
大腿四頭筋力(等尺性筋力)、握力、6MWT、(10m)最大歩行速度、最大吸気圧(MIP)/最大呼気圧(MEP)、肺機能

・身体活動量評価
加速度計(スズケン、ライフコーダー)を使用。平均歩数、3METs以上の活動強度を測定。
入院前の平日5日間装着。入院中は入院最後の5-7日間装着。

・理学療法
術前1-2日に病院にて理学療法を実施。
術後は、早期離床を推奨し、深呼吸や咳嗽練習を実施。
ATS/ERSのガイドラインに基づいて、理学療法士は術翌日から離床開始。
術後1日目:可能であれば、1日30分の座位、30-50m歩行した
術後2日目以降:リハビリ以外でも可能な限りベッドから離れることを推奨した
監視下での理学療法:疼痛やバイタルをモニターしながら、20-40分/日、レジスタンストレーニングやエルゴを退院まで実施
加速度計に基づいた介入は行われなかった

・結果
平均年齢68.9±10.1歳、BMI22.7、術前歩数5093.5歩、入院中歩数2410.5歩、術前活動時間(>3METs)57.1分、PS0or1が90%、在院日数9.5日
術後合併症:高齢患者に多い。術後合併症があったグループは、術前6MWDが短く、入院中の歩数が少ない、術前歩数が少ない
術前PAに関連する要因:多変量回帰分析にて、術前歩数と術前活動レベルに正の相関、術前歩数と術前最大歩行速度に正の相関。

・考察
 肺がん術後患者の術後PAが低いと合併症が多かった→しかし、すべての患者が有害事象無く自宅退院した。周術期理学療法の効果ではないか。
 Marikeらは、入院中の身体活動量が退院時の身体機能に影響すると報告→今回の結果から、入院中だけでなく入院前でもPAを増加させることは、身体機能の改善と不活動に関連する術後合併症(無気肺やせん妄)の予防に寄与する可能性があることを示唆している。
 全患者が良好な肺機能であったため、術後合併症にはその他の要因が影響している可能性。
 呼吸筋力は合併症に関連していなかったが、術前PAとは中等度の相関あり→呼吸筋トレーニングが活動レベルを向上させるかは検討が必要
 身体活動向上のため、遠隔リハやスマートフォンを使用した介入が行われているが、低活動患者のフォローには困難と報告されている。日本では、入院中だけでなく、地域でも活動レベルを向上させるよう法カウ的な理学療法の提供が必要。

研究限界
単施設での研究であり、数が少ない
良好な肺機能患者のみ対象
術前活動は、すべての季節をカバーしていない